俳諧

猫と食事する淡々の屁理屈

うちの猫は、食事中テーブルに飛び乗ってくることがある。細は、叫び声をあげるが、猫は堂々としていて、尻を押しても、踏ん張って降りようとしない。私が注意して下ろすと、床でケロッとしている。「貴方が甘やかすから、こんな猫になってしまったのだ」と…

恒友装幀本の下弦の月

天明期の俳人大伴大江丸の句集を読みたいと思い、探すと見つからず、「俳懺悔」を収録した昭和3年刊の「日本名著全集 江戸文芸之部 第27巻 俳句俳文集」(日本名著全集刊行会)まで遡らないとないことが分かった。 注文した本が、四国の古書肆から届き、…

角力俳句と高田屋の俳人たち

天明の俳人、高井几董について触れてきたが、代表句は、勝った後の相撲力士を描いた次の句だろう。 やはらかに人わけゆくや勝角力 以前、神保町交差点近くの中華料理店で食事をしていた夜、ふれ太鼓が店内に入って来たことがあった。 太鼓を叩いた後、明日、…

住吉で出会った天明の2俳人

林業に詳しい人物から、江戸時代江戸の町は大火事が多かったので、江戸の再建に大量の木材が必要だった、そのため幕府は奥多摩の森林資源と秩父方面の森林資源の2地域を確保していた、と聞いた記憶がある。 奥多摩地区で100年間伐採、その後は秩父で10…

とみ・とらんの「狼」印「狽」印

「サン」「ロク」「イチ」 真夜中に合成音声がリビングに鳴り響く。我が家の猫が、私たちを起こそうと電話機の上に飛び乗って、番号ボタンを踏んで押すのだ。 「タダイマ留守ニシテオリマス」という大きな音も聞こえる。どこを踏んだのだろう。 それでもこち…

芋銭泊雲の書簡集に描かれた恒友

俳人西山泊雲の生家の丹波の西山酒造場が、泊雲と小川芋銭の大正5年から昭和13年の手紙のやり取りを立派な本にしていたことを知り、慌てて連絡した。「芋銭泊雲来往書簡集」。3年前の発行だったが、在庫があるというので取り寄せた。 2人の書簡には、共…

東福寺正覚庵での若き茅舎

川端茅舎/松本たかし集(朝日文庫、85年)より 虎杖をくわえながら墓掃除していた若い修行僧の句について、思い当たることがある。 東京生まれの川端茅舎は、若き頃、度々京都の東福寺正覚庵で過ごしていた。医師への道を取りやめ、兄の川端龍子同様、絵…

春野菜こごみのおすそ分け

近所の奥さんから春野菜の「こごみ」を頂いたので、お浸しにして鰹節をかけて食べた。アクもなく、新鮮でおいしく、何本も食べた。 群馬県沼田にある奥さんの実家から大量に届いたので、おすそわけ、とのことだった。流通を通さないで得る、こうしたものが、…

コロナ自粛と虚子のコレラ句

新型コロナの蔓延もあって、夏の季語として俳句で扱われていた「コレラ」の句も、見直されているようだ。 神保町のA書房の100円本で見つけた昭和3年「虚子句集」には、「寝冷」と「冷奴」に挟まれて「コレラ」の季語が置かれ、8句が掲載されていた。 …

4月22日の夏服

日本歳事史 京都の部の見返し 最高気温が27℃というので、夏服を探して出勤する。 はやばや4月22日に衣替え。 わが事務所ではクールビズは世間並みに5月1日から。温暖化が進んでいて、春の短さを思い知らされる。 近所の神保町のA書房の100円本で見…

古本店の店仕舞い

本郷三丁目交差点にある古本店が、店仕舞いする。地下鉄で2駅、出かけてみると、おかみさんが坐っていて、あと1年頑張るといっていたんだけど、主人の体力がもうもたないと、4月で閉めることにきめた、といわれた。コロナとは無関係で、理由は高齢による…

蕪村とクッキング

休日は、いつも細に代わって朝食を作る。 簡単なもので済まそうと、昨日は肉汁うどん。 今朝は、納豆スパゲッティとベーコンと玉葱のコンソメスープ。 簡単メニューだが、納豆には味噌を加え、スープには白ワインを入れ若干の工夫はしている。 葱買て枯木の…

小野篁と猫の子仔猫

息子から貰った新刊本を、三連休に読み進んだ。 冥界と行き来した伝説のある平安時代の小野篁についてまとめた繁田信一「小野篁その生涯と伝説」(教育評論社)だ。 伝えられる嵯峨天皇との「なぞなぞ」のやり取りについても、丁寧に書かれていた。 「子」が…

麦南句集の印

甲鳥書林の書籍のなか、「人音 西島麦南句集」(昭和16年)は凝った検印紙に動じず、普通の印を捺してあった。 西島は23歳から5年間、「新しき村」に参加した。そのためか、武者小路実篤が装幀を担当して野菜や果物(柿)の絵を描いている。 目を通すと、…

富士山と琵琶湖の容積対決

梅雨入りして1週間たった。最近の五月雨は、だらだら降るというより、集中豪雨のような強い降りがあって、油断ならなくなった。 湖へ富士をもどすやさつき雨 与謝蕪村にこんな句があって、蕪村は、富士山を崩すような激しい五月雨を描いている。 湖は琵琶湖…

其角の命拾いと大野秀和

薄田泣菫のエッセイはやはり面白い。大正時代の人物や時代の空気が伝わってくるからということもあるが、関心を持っている人物が近いということもある。 好きな元禄の俳人、宝井其角も泣菫の「茶話」に登場する。「36計逃げるに如かず」のエピソードを持つ…

幸徳事件と虚子

明治43年の幸徳事件は、初等教育用歴史教科書の文部省担当官の喜田貞吉ばかりか、俳句誌「ホトトギス」の主宰高浜虚子にも大きな転機を齎したのを、最近知った。 同誌から生まれた作家夏目漱石のように、小説家を目指し作品を発表していた虚子は、同年「ホト…

栗山竹の花について

小泉迂外の作品が掲載されていた俳句雑誌「やまと」(昭和10年1月号)は、栗山竹の花という俳人が主宰、発行人となっている。 正直、この竹の花という人物がよく分からない。発行所の住所が駒込肴町(現・文京区向丘)で、道の向いに天ぷら屋「天安」があ…

迂外の「俳人の食味」

昭和10年の「やまと」1月号は、フクロウの絵の表紙で40頁だて。小泉迂外の句は「初日集」の3番目に掲載されていた。 臼田亜浪「元日を飼われて鶴の啼きにけり」 加納野梅「元日のたちまち暮るる献酬や」 とのどかな新年の句が続く中、迂外は年の暮れの…

寿司作りと俳人小泉迂外

休日の朝昼は、必ず食事を作っている。大体は細に好評なのだが、パスタ、そば、うどん、ソーメンの麺類や、炒飯、オムライス、親子丼などに限られた狭いレパートリーなので壁にぶち当たってしまった。 和食に挑戦か、寿司はどうか。ネットの寿司レシピをみる…

苦労して「祭猫文」を読んではみたが

各務支考「祭猫文」の本文は、難解だ。誰か評釈をしているのだろうが、手元にない。 何度か、読んでいると、支考は、亡くなった猫をメス猫として描いていることが、分かった。 かつては華やかな恋もしたが、源氏物語の女三宮のように、尼となって李四の草庵…

「祭猫文」の風流猫

コロナウイルスのせいで、休日は引き籠る。 細があくびしながら、テーブルの上で新聞を読もうとすると、猫は新聞の上に寝そべって邪魔をする。書室で私がパソコンをチェックする気配を感じ取ると、今度はこっちに飛んできてPCのキーボードの上に陣取って、…

蛇に見立てた猫の尻尾

ヌエ(鵺)のことで、猫と蛇に触れたが、猫を観察していると、尻尾が蛇に似ていると思うことがある。とくに、左右にクネクネと振る時。 高浜虚子の戦時下の俳句に猫の尾に触れたものがあった。 昭和18年4月25日、小石川植物園御殿「冬扇会」での披露句…

「不猫蛇」ってなにか

俳聖・松尾芭蕉の没後には、弟子たちの激しい対立があったようだ。猫の名がついた「不猫蛇」という書を、蕉門十哲の越智越人がものしているのを知って、どんな猫蛇だと興味を持って、のぞき読みしたところ、同じ十哲の各務支考に喧嘩を売っている内容だった…

「化けさうな傘」を巡って

芭蕉の元禄ごろの俳句と違って、蕪村に代表される江戸の中ごろの俳句は、同時期に生まれた雑俳、川柳なども併せて見てみないと全体像がつかめないのかもしれない。 そう思ったのは、昭和2年の雑誌「江戸時代文化」を読んでいた時。雑誌編集で出来た空白の埋…

「欲得離れ」た日比野士朗の遺作

作家・日比野士朗の遺作「芭蕉再発見-人間芭蕉の人生」(新典社)を、苦心しながら読んでみた。専門的な芭蕉研究だった。しかも、芭蕉の書簡の読み解き、弟子や後世の芭蕉伝記の比較検討と、基礎的な探求を続けていた。 まえがきで「この考証を始めてからま…

昭和21年「東北文学」と「第二芸術論」

神保町の古書店から買い込んだ雑誌類が読みきれない。史学の雑誌、民俗学の雑誌、俳句誌、総合誌と混ざっているので、思考があっちこっちしている。 思いがけない発見は「東北文学」の昭和21年2月発行の第2号だった。著名な文学者が多数東北に疎開しているこ…

生類憐れみの令と猫の句

芭蕉の門下に、猫や鼠の俳文や句が目立つというのは、徳川綱吉の「生類憐れみの令」と関係があるのだろうか。 芭蕉は元禄七年に没したが、弟子の蕉門十哲は、杉山杉風を除き2-30代で元禄を迎え、元禄末の17年に丈草が没したが、9人はさらに長く生きて…

ネコと禅僧の長い付き合い

其角の猫の五徳について、やっと、清の「淵鑑類函」を通して明の「古今譚概」にたどり着いたが、なんということはない。中国文学者の今村与志雄氏(1925-2007)が「猫談義」で、其角の猫の五徳と、馮夢龍編著「古今譚概」の猫の五徳について書いて…

其角の「猫の五徳」

宝井其角という元禄時代の俳人は、偉大な師匠松尾芭蕉に比べても、知識も豊富、世間のこともよく分かった御仁だった、と思うようになった。しかし、句は当時の事情が分からないと理解できない難点がある。 猫の句が多いのも好ましい。猫の「5つの徳」として…