銀猫を31両で売った西行法師

北尾派の祖で、江戸時代中期に江戸の絵本を仕切っていた絵師北尾重政(1739-1820)の門下には、優秀な3人が居た。絵師としてばかりか戯作者として活躍するものもいた。 窪俊満(南陀伽紫蘭。1757-1820) 北尾政演(山東京伝。1761-…

五劫院の見返り地蔵と大仏殿の女人参詣

見返り仏について探っているが、次に地蔵ついて整理してみた。 日本の中世、どうして地蔵がクローズアップされたのだろう。 どうやら日本製の経典(偽経)が大きく働いているようなのだ。 まずは、地蔵を慕う老尼の姿を追ってみる。 地藏は忙しく毎朝歩き回…

見かえり阿弥陀像と東大寺東南院

普段は公開されないが、京都東山の永観堂禅林寺に見返り阿弥陀如来像が安置されている。顔を左に向け、肩越しに視線をやっている。 「本尊みかへり阿弥陀仏は世に名高し」(「京都名勝帖」明治42年、風月堂)と、珍しい仏の姿は古くから信仰されてきたこと…

見返り地蔵と目蓮口説

孫たちが埼玉県こども動物自然公園(東松山市)に行ってポニーに乗ってきたと喜んでいる。動物公園から坂を上った近くに岩殿観音があり、今度は一緒に寺の近くを散策したいと思う。寺の参道を下って行くと、阿弥陀堂跡に池があり、立派な板碑や石仏が並んで…

天平時代のキョンシー

猫と僵屍を調べて行くうちに、妙な事が分かってきた。キョンシー、僵屍の考えが日本に伝わったのは、はるか昔の奈良時代。それも仏典を通してで、しかも、僵屍は、「殺人兵器」だというから、驚いてしまった。 キョンシーは「起屍鬼」と表記されて「本願薬師…

江南の蚕猫と僵屍伝承

猫が死体をキョンシー(僵屍)として生き返らせる話が、中国にあることを知ったのは、劉金挙・夏晶晶「近代初頭に至るまでの日本文芸における『猫』」(札幌大学総合論叢46号、18年10月)でだった。 WEBで閲覧出来て、「確かな記録はないようである…

通夜のキョンシー説話と蚕猫

死体に猫が近づくと死体が起き上る下総国の話が、平岩米吉「猫の歴史と奇話」(85年、動物文学会)に記されている。 「小金の脇の栗ヶ沢村(現、千葉県東葛飾郡)という所のやもめ暮しの老女が死んだ時、土地の若者どもが戯れに三毛の大猫を捕えて死人の上…

あの書店は小倉の金栄堂だった

半世紀近く前のこと。萩に仕事で向かい、乗換え駅の山陽新幹線の小倉駅で下車した。書店を見つけてこれから先の旅で読む本を買ったところ、本をくるんだブックカバーに目が行った。デザイン・伊丹十三の名前があり、新鮮な驚きを感じたことを鮮明に覚えてい…

寅彦の飼猫、三毛と玉

短編なのに、最後まで読み通せない作品がある。子母澤寛(1892-1968)の「ジロの一生」(「愛猿記」=56年、文春新社)。あまりにけなげなジロという犬が悲しくて、涙で最後まで読み切れないのだ。 可愛がれていたジロだが、新米の飼犬アカに主人…

馬来田が「まぐだ」と読める訳

モンゴル語は「母音調和」があり母音の多いことで知られるが、日本語も古代は「上代特殊仮名遣」があって、音によっては甲類乙類に別れ、母音の数も8種類あったと想定されている。日本語とモンゴル語は共通項が多いのだ。 以前、モンゴル語の音韻変化の特徴…

鳥獣戯画絵巻施入と湛慶と

西行法師が鎌倉の鶴岡八幡宮で源頼朝から貰った銀製の猫をめぐって、つらつらと書いてきた。銀猫は残っていないが、同時代の中国・宋の写実主義絵画の猫をもとに作られたと推測した。さらに、時代は40年ほど下るが慶派の仏師湛慶が制作した京都栂尾・高山…

猫の絵を通して鳥獣戯画を見直す

猫を通して、鳥獣戯画を見てみることにした。 高山寺に伝わる鳥獣戯画は20数種の動物が登場する絵巻4巻で、まんがの元祖といわれるように、動物(人間も)の動きが活き活きと描かれている。 また鳥獣戯画には他に伝承された模本などがあり、高山寺本は切…

酔胡従の割れた鼻について

前に書き散らしたことの整理を始めることにした。まずは伎楽の面のこと。 飛鳥時代に伝来したとされる「伎楽」は、笑いの要素がたっぷり詰まった舞だった。十ほどある出し物には、酔っぱらいの模写、おむつ洗いのマネ、女人にちょっかいを出し、叩きのめされ…

蘇鉄と信長猫

滋賀県は10月に安土城天主台の周辺調査を開始した。20年がかりの計画という。 安土城の大庭には蘇鉄が植えられていたと、歌舞伎、浄瑠璃「絵本太功記」(1799)に出てくるのを思い出した。織田信長は堺の寺院「妙国寺」の庭に植えられていた大蘇鉄が…

たくらだ猫とインドキョン

猫の諺はたくさんあるが、「タクラダ猫ノ隣アリキ」という諺があるのは、知らなかった。安土桃山時代の頃の諺として書き留められていたのだった。 藤井乙男編「諺語大辞典」(明治43年、有朋堂)を見ると、 タクラダ猫ノ隣アリキ タクラダは愚鈍なる者をい…

殿上人をギャフンをいわせた鬼貫伝

大伴大江丸が残した上島鬼貫の逸話は、俳諧師夏目成美の「伊丹鬼貫伝」に記されている。 伊丹の造酒家の三男鬼貫(1661-1738)は、実家が公家の近衛家の領地だったこともあり、京都の近衛家に出入りすることがあったのだという。 当時近衛家は近衛…

猫の目時計を句にした鬼貫

早朝散歩で出会った猫は、すでに瞳は針のように細く、はや正午を告げていた。ノルウエーの猫の血をひいているという。 さて、猫の目が時を告げるという「猫の目時計」に関して、江戸時代の記述で新たな例を見つけた。文化11年(1814)、雑学家の石塚豊…

アオスジアゲハとタヌキチョウ

猛暑のせいか、蝶々を見かけない。蝉の鳴き声も例年の蝉しぐれの迫力がない。 空梅雨と猛暑で立ち枯れた紫陽花が象徴するように、花がやられてしまったので、昆虫に影響が出ているのだろうか。家の木によく来るアオスジアゲハも今年は姿を見せない。 お盆が…

日除けと馬の毛製「おいかけ」

猛暑が続いているので、事務所への通勤は帽子が欠かせないようになった。それでも、首のうしろ、左右の耳にじりじりと日が当たる。 王朝時代の武官は冠とともに、冠の左右に「おいかけ(緌)」という扇のようなものを着けていた。軽いものだったようだ。あれ…

フクロウのアイスクリーム店

「梟をねこと(ど)りといへるは、かれか(が)頭の、猫に似たるよりいふ、と人みなおもへり」 江戸時代の国学者中島廣足の文章を前に記した。廣足はフクロウをネコドリと西国で呼ばれていることをあげつつも、名の由来はフクロウの頭が猫に似ているからでは…

「猫頭巾」と「猫をかぶる」

猫頭巾という頭巾があるのを知った。 江戸時代に火消しが火事場で被った丈夫な頭巾だとのことだった。火の粉や熱風を防ぐためのものらしい。しかしー。 江戸時代より100年以上前の1499年に編集された俳諧連歌撰集「竹馬狂吟集」に出てくる「猫頭巾」…

通夜の猫の迷信再び

通夜に猫を近づけるな、という迷信を前に書いた。相模地方、壱岐島、茨城・常総では明治、大正時代まで、猫が近づくと死体が化けて立つという迷信があり、蒲団の上に織物の道具、杼(ひ)や桛(かせ)を置いて猫を遠ざけたというものだ。 中国、朝鮮半島にも…

梅雨前の早朝散歩

土日の早朝散歩を始めた。5~6時ごろに出発し、1時間ほど歩いて戻る。 小川沿いに歩き、大通りにぶつかる前にUターンする。 リードを付けて猫と散歩する壮年の男性とも出会った。猫と散歩できるのは羨ましいですなあ、と立ち話をすると、冬の寒い日も5…

カフェ「ウクライナ」と贋ニジンスキー応援団

有楽町駅前の横丁に「ウクライナ」というカフェがあった、と高田保(1895-1952)が書いている。 大正11年(1922年)前後らしい。ウクライナ人の主人が料理と酒を出し、ロシア革命に追われて亡命してきた白系ロシアの連中の溜まり場になってい…

猫股と蛭飼

私の高校時代からの知人の歯科医院まで、細は1時間近く電車に乗って歯のチェックに行った。知人は年下の奥さんと2人で治療に当たっている。「今までは妻が一人前の働き、私は高齢で半人前の働きでしたが、最近は夫婦合わせて1人前です」と話していたとい…

チシマキンバイと武田久吉

山野草の展示会があったので、細と覗きに行った。 前に書いたムサシアブミ(武蔵鐙)が多数出展されていたので、びっくりした。今年はムサシアブミの当たり年だったのか。 以前、出展者の男性に話を聞いたことがある。展示会にあわせて山野草を育てるのは難…

9千歳・東方朔の役回り

賓頭盧尊者の寿命7万年には及ばないが、9000歳生きるとされる伝説の人物が中国の東方朔。 仙界で、1果3000歳の寿命を得る仙桃を3果も盗み食いしたため、途方もない長寿を得たとされる。賓頭盧が仏界の人であるのに対して、道教の仙人のような存在…

賓頭盧さまと月の鼠

善光寺の盗難騒ぎで、「賓頭盧(びんずる)尊者」に俄かにスポットライトが当たった。 猫や鼠のことを考えていた私は、賓頭盧さんに関係した「月の鼠」を思いだした。 「月の鼠」とは「月日が過ぎゆくこと」。 賓頭盧の説法が記された「賓頭盧説法経」がもと…

富土卵の言葉遊びと不思議な猫の絵

京の洒落本作家で俳人の富土卵(とみ・とらん)が「狼狽(うろたへ)散人」の筆名で書いた「花實都夜話(かじつみやこやわ)」(寛政5年=1793)で、不思議な挿絵を見つけた。 おそらく本人が描いたのだろう。やかんや庖丁、鍋、釜、擂粉木などの絵は、…

猫の名の起源はフクロウだと言った国学者

ねこの名が付いた鳥にはウミネコ(似た鳴き声からだろう)があるが、「ねことり」と呼ばれるものがあるのを、江戸時代の随筆で知った。 おそらく「ねこどり」と発音したのだろう、フクロウのことだという。 「西国にて、梟をねことりといへるは、かれか頭の…