2023-01-01から1年間の記事一覧

「猫頭巾」と「猫をかぶる」

猫頭巾という頭巾があるのを知った。 江戸時代に火消しが火事場で被った丈夫な頭巾だとのことだった。火の粉や熱風を防ぐためのものらしい。しかしー。 江戸時代より100年以上前の1499年に編集された俳諧連歌撰集「竹馬狂吟集」に出てくる「猫頭巾」…

通夜の猫の迷信再び

通夜に猫を近づけるな、という迷信を前に書いた。相模地方、壱岐島、茨城・常総では明治、大正時代まで、猫が近づくと死体が化けて立つという迷信があり、蒲団の上に織物の道具、杼(ひ)や桛(かせ)を置いて猫を遠ざけたというものだ。 中国、朝鮮半島にも…

梅雨前の早朝散歩

土日の早朝散歩を始めた。5~6時ごろに出発し、1時間ほど歩いて戻る。 小川沿いに歩き、大通りにぶつかる前にUターンする。 リードを付けて猫と散歩する壮年の男性とも出会った。猫と散歩できるのは羨ましいですなあ、と立ち話をすると、冬の寒い日も5…

カフェ「ウクライナ」と贋ニジンスキー応援団

有楽町駅前の横丁に「ウクライナ」というカフェがあった、と高田保(1895-1952)が書いている。 大正11年(1922年)前後らしい。ウクライナ人の主人が料理と酒を出し、ロシア革命に追われて亡命してきた白系ロシアの連中の溜まり場になってい…

猫股と蛭飼

私の高校時代からの知人の歯科医院まで、細は1時間近く電車に乗って歯のチェックに行った。知人は年下の奥さんと2人で治療に当たっている。「今までは妻が一人前の働き、私は高齢で半人前の働きでしたが、最近は夫婦合わせて1人前です」と話していたとい…

チシマキンバイと武田久吉

山野草の展示会があったので、細と覗きに行った。 前に書いたムサシアブミ(武蔵鐙)が多数出展されていたので、びっくりした。今年はムサシアブミの当たり年だったのか。 以前、出展者の男性に話を聞いたことがある。展示会にあわせて山野草を育てるのは難…

9千歳・東方朔の役回り

賓頭盧尊者の寿命7万年には及ばないが、9000歳生きるとされる伝説の人物が中国の東方朔。 仙界で、1果3000歳の寿命を得る仙桃を3果も盗み食いしたため、途方もない長寿を得たとされる。賓頭盧が仏界の人であるのに対して、道教の仙人のような存在…

賓頭盧さまと月の鼠

善光寺の盗難騒ぎで、「賓頭盧(びんずる)尊者」に俄かにスポットライトが当たった。 猫や鼠のことを考えていた私は、賓頭盧さんに関係した「月の鼠」を思いだした。 「月の鼠」とは「月日が過ぎゆくこと」。 賓頭盧の説法が記された「賓頭盧説法経」がもと…

富土卵の言葉遊びと不思議な猫の絵

京の洒落本作家で俳人の富土卵(とみ・とらん)が「狼狽(うろたへ)散人」の筆名で書いた「花實都夜話(かじつみやこやわ)」(寛政5年=1793)で、不思議な挿絵を見つけた。 おそらく本人が描いたのだろう。やかんや庖丁、鍋、釜、擂粉木などの絵は、…

猫の名の起源はフクロウだと言った国学者

ねこの名が付いた鳥にはウミネコ(似た鳴き声からだろう)があるが、「ねことり」と呼ばれるものがあるのを、江戸時代の随筆で知った。 おそらく「ねこどり」と発音したのだろう、フクロウのことだという。 「西国にて、梟をねことりといへるは、かれか頭の…

梅宮社祢宜が書き残した「まづあるじゃげな」

橋本経亮をおっちょこちょいと書いたが、私の方がおっちょこちょいだった。 法隆寺の出開帳は、そうたびたび京都では行われていないのだった。伽藍修復の資金集めのために、江戸時代を通して京都は江戸とともに2度行われたにすぎない。 元禄7年(1694…

ダン王の黒猫と法隆寺御開帳

猫で有名になり、今では猫目当ての参拝客で賑わう洛西の梅宮大社であるが、江戸時代この神社には国学者の橋本経亮(1755-1805)という神官がいた。 経亮は、随筆集「橘窓自語」を著し、その中で京都三条大橋の近くにあった「ダン王」こと檀王法林寺…

南陀伽紫蘭(なんだかしらん)の描く猫

江戸時代の戯作者に「なんだかしらん」という人物がいる。「南陀伽紫蘭」と表記している。 現代にも「南陀楼綾繁」(なんだろうあやしげ)という物書きがいるので、ご先祖のような名前だと興味を持っている。 紫蘭は、もともと画師として知られた窪俊満(1…

「かぶねこ」と「ごんぼう」の短尾猫

浮世絵に描かれた猫の尾を長い尾、短い尾、ボブテイルの3つに分けたが、短尾とボブテイルを一緒にして、「短尾」として括るケースが多いようだ。確かにbobtailの意味には、無尾のほか短尾も含まれている。 ただし、浮世絵で歌川国芳が好んで描いた猫の短い…

浮世絵猫の尻尾は3タイプ

幕末から明治初頭に活躍した仮名垣魯文(1829-1894)は、芸妓を猫と言い出したことで知られる。芸妓の内幕を描き、「猫々奇聞」「猫晒落誌」などのタイトルで連載して評判になったという。 自ら猫々道人(みょうみょうどうじん)と名乗り、また榎本…

春草の「黒き猫」と泣菫の一言

重要文化財「黒き猫」の作者、菱田春草(1874-1911)は明治時代、日本画の改革を進める岡倉天心、横山大観らとともに、日本画壇から猛反発を受けながら、新しい日本画の道を切り開いた人物として知られる。 36歳で亡くなったため、大観の陰に隠れているが、…

武芸の極意を伝授した猫

猫にも「名人伝」があるとすると、この猫が第一候補なのだろうか。 こんな話を最近知った。知られた話らしい。 江戸時代、勝軒という剣術者の家に、大きな鼠が出て昼間から暴れた。鼠を部屋に閉じ込め、手飼いの猫を入れて退治することにした。鼠は予想外に…

正月の翁に齢を聞くな

門松や冥途の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし という正月に、老人に齢を聞く人がいる。困ったものだ。 80歳を超える長生きをした江戸時代の俳諧師横井也有(1702-1783)も新年に齢を聞かれたらしい。 俳文集「鶉衣」に、いきさつを書い…

百亀の小噺に出てくる銀の猫

偶然聞いた落語で興味を持った小松屋百亀(1720-1794)について、さらに調べて見た。 「擬宝珠」の原形の小噺が収録された「聞上手」の直後、続編の「聞童子」(安永4=1775)が刊行されていたことを知り、こちらも目を通した。 落語「一目上…

落語「擬宝珠」と秘薬「文武丸」

正月、NHKで上野の鈴本演芸場から中継があり、柳家喬太郎が「擬宝珠」の演目を早口で演じていた。あまりにおかしな話なので聴き入ってしまった。 どうおかしいかというと、息子が元気がないので、心配した親が幼馴染に頼んで、理由を聞きだしてもらった。…