2021-01-01から1年間の記事一覧

画から飛び出さない也有の猫

江戸時代、動物を描いた画の褒め方に、絵から飛び出て本物の動物に変わるというパターンがあったようだ。 「雨月物語」(1776年刊)には、三井寺の僧興義が臨終に際して、紙に書いた鯉の絵を琵琶湖に散らすと、鯉が泳ぎ出した、という話(夢応の鯉魚)が…

岸駒の蕉翁涅槃図

来年の干支、とらの絵といえば、岸駒(がんく)が知られる。江戸後期の京都で活躍した日本画家で、円山応挙とともに逸話の多い人物だ。 虎の絵を好み、猫を参考にして描いていたが、清の商人から手に入れた虎の頭蓋骨がきっかけで、迫力ある虎を描くようにな…

ふなかわ・みかんの装幀本

天明期の京の俳人富土卵(とみ・とらん)の手がかりを求めていくと、親交のあった俳人西村定雅に行き当たった。土卵は、京で人気だった定雅の洒落本に影響を受けて洒落本を書いたとされ、二人は京都東山の雙林寺の門前で近所付き合いをしていた。 大正時代に…

ドゥーフの稲妻句

届いた古本に、出版当時のチラシなどが挟んだままのことがあって、それはそれで興味深い。昭和3年刊行の「日本名著全集巻27」には、同全集の「特別通信・書物愛」(発行兼印刷人石川寅吉)が挟まっていた。 西鶴の句の短冊、凡兆の肖像などとともに、夭折…

鷹飼家の俳人土卵

先に触れた天明期の京都の俳人で洒落本作者「富土卵(とみ・とらん)」を調べていて、土卵が下毛野氏の末裔であることが分かった。 下毛野氏といえば、前に度々触れたように、古代から中世へ「鷹狩」の技術を伝承した一族で、平安時代には、摂関大臣家の大饗…

猫と食事する淡々の屁理屈

うちの猫は、食事中テーブルに飛び乗ってくることがある。細は、叫び声をあげるが、猫は堂々としていて、尻を押しても、踏ん張って降りようとしない。私が注意して下ろすと、床でケロッとしている。「貴方が甘やかすから、こんな猫になってしまったのだ」と…

恒友装幀本の下弦の月

天明期の俳人大伴大江丸の句集を読みたいと思い、探すと見つからず、「俳懺悔」を収録した昭和3年刊の「日本名著全集 江戸文芸之部 第27巻 俳句俳文集」(日本名著全集刊行会)まで遡らないとないことが分かった。 注文した本が、四国の古書肆から届き、…

ヨネ少年の1882年彗星体験

通勤帰り、駅を降りて休日の料理のために買物をして帰ろうと、ビルとビルをつなぐ歩道橋を行くと、東南の空にスマホを掲げる老若男女の混雑に出くわした。 月蝕をスマホで撮影しているのだった。月全体が薄暗くなって、右下に小さな三日月型が輝くだけになっ…

角力俳句と高田屋の俳人たち

天明の俳人、高井几董について触れてきたが、代表句は、勝った後の相撲力士を描いた次の句だろう。 やはらかに人わけゆくや勝角力 以前、神保町交差点近くの中華料理店で食事をしていた夜、ふれ太鼓が店内に入って来たことがあった。 太鼓を叩いた後、明日、…

住吉で出会った天明の2俳人

林業に詳しい人物から、江戸時代江戸の町は大火事が多かったので、江戸の再建に大量の木材が必要だった、そのため幕府は奥多摩の森林資源と秩父方面の森林資源の2地域を確保していた、と聞いた記憶がある。 奥多摩地区で100年間伐採、その後は秩父で10…

天青堂と「栗山」印

神田小川町で仕事するようになって6年ほど経った。幾つかの神保町界隈の古本、古レコード店、小川町周辺の飲食店、和菓子店に通って、馴染みになったのが、なにより嬉しい。気心が知れてくると、お互い掛け値なしで普段着で話が出来るようになる。 そして、…

とみ・とらんの「狼」印「狽」印

「サン」「ロク」「イチ」 真夜中に合成音声がリビングに鳴り響く。我が家の猫が、私たちを起こそうと電話機の上に飛び乗って、番号ボタンを踏んで押すのだ。 「タダイマ留守ニシテオリマス」という大きな音も聞こえる。どこを踏んだのだろう。 それでもこち…

マチスの狛犬について

猫のいる古レコード店にまた出直して、買い物をしたが、レコードもストラヴィンスキーの「夜鳴きうぐいす」(Le Rossignol)など買って帰った。 アンデルセンの原作を元に、ストラヴィンスキーが作曲した3幕の短いオペラだ。 LPのジャケットに…

知人の庭の猫と花

休日に、家族で知人の珈琲店へランチを食べに行った。奥武蔵の山並みが間近で、空気もいいので、気持ちがいい。 孫娘もつれていく。冬以外は庭に花が咲き乱れているので、花摘みを楽しみにしているのだ。私は、駐車場の横で、ホオズキを見つけてひとつ摘み、…

猫用にショールを購入した

コロナ自粛が緩和されてから初めて、神保町の猫の古レコード店に顔を出した。 少しずつ、お客さんが戻って来たという。猫は奥の棚の中でじっとしていたが、呼ぶと出てきた。撫でられるのが好きな猫なので、しばらく撫でて過ごした。 主人によると、コロナ自…

女帝たちと法相宗、華厳宗

休みの日に、孫娘を預かることが増えた。私の部屋が気に入って、部屋にある物を弄りまわす。 朱肉と黒スタンプで手を汚しながら十種類の印鑑を押しまくり、旅先で拾った石や、外国コインを瓶や箱からベッドにぶちまけては、また戻して楽しんでいる。ネクタイ…

ヨーロピアンスタイルの役行者

人間に抱かれるのを断固拒否する我が家の猫も、淋しいのか、ベッドに上がって来て、身体を私の脚にくっつけてくるようになった。 猫が寝ている間に、手に余って来た「弥勒仏」について、フィニッシュを目指して考え続けてみた。 十三重塔から、始めてみる。…

帝王=弥勒説

猫を横目に、弥勒仏に就て気が済むまで、探索することにした。 インドから経典を運び、漢訳して弥勒信仰を中国に伝えたのが、「西遊記」でもおなじみの玄奘三蔵。玄奘は、中国法相宗の礎を築いたとされる。この教えは、「唯識」といわれる。 法相宗のことも…

法隆寺四仏浄土図の如来倚像

猫と一緒に、いろいろと歴史を調べていくと、過去の研究結果から定説とされているものが、ネット上や報道などで、まるで「絶対真実」であるかのように扱われている危うさに気づくことが多い。 私たちが学生の時に教科書で教えられた源頼朝、足利尊氏の画が、…

猫にジャマされ乍らなお弥勒仏を

古代の弥勒仏を調べ出すと、膨大な資料を読まないとならないことが分かった。せめて、要点を掴もうと試みると、早速邪魔が入った。 「一緒に遊んでくれ」と、猫がデモンストレーションを起こしたのだ。パソコンのキーボードの上に坐り込んでしまった。追い払…

八王子の仏像の薬壺

考古学者で、文化財調査でも業績を残した柴田常恵氏について、いままで度々触れてきたが、深大寺の「釈迦如来倚像」についても同氏が明治時代に撮影した写真資料を残していた。 WEBで「國學院大學学術フロンティア構想柴田常恵写真資料目録Ⅰ」の東京の部…

深大寺と深沙大王

深大寺に話が飛んでしまった。 同寺の白鳳仏「釈迦如来像」は、「弥勒仏像」ではないか、と中国唐代の大仏を調べて居て、行き当たったのだ。 「釈迦如来」として当寺で伝えられたのだが、釈迦如来の深い根拠はないようだ。 私は、深大寺に残るわずかなシルク…

唐代の巨大弥勒仏

唐代の楽山大仏をどこから理解していこう。坐り方から考えてみるか。 楽山大仏は、台座に腰かけていて、両脚は前に下ろしている。我々が椅子やベンチに腰かけている姿と同じだ。 この坐り方の仏像は、ガンダーラ地方で古く登場したことで知られる。アレクサ…

100年前の大仏写真

猫と一緒に、1908年発行の本を引っ張り出して、確かめてみる。 英国の女流作家アリシア・リトルが著した清の時代の中国紀行「In the Land of the Blue Gown」(Mrs. Archibald Little)。この本に掲載された巨大な石仏の写真を思い出して、開いてみたの…

埋もれているムクドリの才能

ムクドリの大群が、郊外の町でうるさい声をあげ、住民が迷惑していると報道があった。一度、郊外の駅前でムクドリに出くわしたことがあり、道に落ちているその糞の量にびっくりしたことがある。 その後、本を読んで、なんだかムクドリの扱われ方もかわいそう…

わが家のカウチ猫

夜10時ごろ、BSで岩合さんの猫歩きの番組(たいていが再放送)が始まる時間になると、猫のためにテレビをつけることがある。 猫番組が好きな、わが家の猫は、ほっておくと、1時間まるまる見ていることがある。 以前は、テレビに前足を押し付けて画面の…

ハッダの仏頭のこと

アフガニスタンは行ったことがないし、遠い存在だと思って居たら、我が家のテレビの前のチェストが、アフガニスタン製の家具のはずだ、と細が言い出した。 テーブル替わりに使っている。数十年も前に、近所に家具屋が出来たので覗きに行って、珍しいこのチェ…

1900年代のNY摩天楼

神保町で手に入れた古書に、図版を印刷するのでなく、白紙のページに貼り付けている体裁のものに出くわすことがある。 例えば、柳宗悦が発行した雑誌「工藝」(昭和14年2月号)。図版はみな、和紙に貼付されている。 絵の一枚一枚がなんだか、大切なもの…

「いつまでいつまで」と怪鳥の声

「いつまで いつまで」。新型コロナ感染が収まらず、まだまだ続く緊急事態宣言に、ため息交じりに、こうつぶやいてしまう。 疫病が流行していた時、「いつまでいつまで」と鳴いた怪鳥の話があることを思い出した。「太平記」巻12に出てくる「広有射怪鳥事…

落ちた堀から怒鳴る上人について

辺りを観察し上から見下ろす猫の眼、足元で上目遣いに甘える猫の眼。 見下ろす眼、見上げる眼の表情は全く違う。かわいい猫をしたたかな動物と思う瞬間だ。 上から目線 下から目線 以前から気になっている「徒然草百六段」の話も、目線で解釈すると別のおか…