神保町で手に入れた古書に、図版を印刷するのでなく、白紙のページに貼り付けている体裁のものに出くわすことがある。
例えば、柳宗悦が発行した雑誌「工藝」(昭和14年2月号)。図版はみな、和紙に貼付されている。
絵の一枚一枚がなんだか、大切なものに思えてくる効果がある。
米国の古本でも、そんな体裁のものを神保町のY書房で見かけたので手に入れた。
1900年代のNYの摩天楼を描いた版画家ジョセフ・ペネルのスケッチ集「The Great New York」。ボストンのLe Roy Phillipsという出版社から1912年(大正元年)に初版が発行された。
摩天楼が描かれているので、てっきりエンパイア・ステートビルか、と思ったが、300m級のエンパイア・ステートビル(1931年)や、クライスラービル(1930年)は、30年代に入ってからの建築なので、この頃のNYの摩天楼は、シンガータワー(187m)だと思われる。
ペネルという版画家は、1857年にフィラデルフィアに生れ、23歳でフィラデルフィア版画協会を設立。NYの画商と契約し、建設中のパナマ運河や、欧州へスケッチ取材をした。1904年にNY摩天楼シリーズを発表すると、NYを旅行者に紹介するヴァン・ダイクの本に用いられ、一躍売れっ子になった。海外訪問客が、船上のデッキから初めて目にするマンハッタンのファンタジックな摩天楼を、その後も次々にスケッチして発表する。
版画は今も米各地の美術館で展示されているが、この古本の版画の数点が本来のものと違って左右反対に印刷されているのではないか、と疑問を持つようになった。
本に貼られていた、湾内からNYを見渡す1908年の「The unbelievable city」
展示作品は、上のように左右逆。雲を見ればよく分かる。
23階建ての米国保証会社ビルを描いた1904年の「The Golden Cornice」
これも、下のように展示されているものと左右反対。左側のビルが、スケッチ集では右に建っている。
収録された23点のうち少なくても、2点がこんな風になっていた。理由がつかめない。
貼り付けられた図版を見ながら、裏焼き状態のものもまた、貴重な気がしてきた。
たまたま手にした一冊の古本から、20世紀初頭の米ボストンの本づくりの様子を想像し、時間を潰した。