猫の表紙と鼠の挿絵

 猫が表紙の昭和24年3月号の「笛」は、表紙裏に、鼠の挿絵が印刷されている。茄子のような野菜を、鼠がむしゃむしゃ齧っている。
 
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 同号の表紙が猫なので、挿絵は鼠をと、版画家の関野凖一郎氏(1914-1988)に編集者が提案して注文したのだった。
 
 後書きで板垣氏という編集者が記していた。関野氏は、表紙の猫が高岡徳太郎画伯(1902-1991)なら、自分の絵の鼠は高岡画伯の猫に「食われても本望」といって引き受けたという。このへんのやりとりは興味深い。
 両画伯とも寅年生まれで、高岡画伯はひと回り先輩にあたる。関野氏は青森生まれで、18歳で日本版画協会展に入選し、恩地孝四郎に師事し、一木会で活躍した。
 
 後書きには、前の号の表紙が、読者の不評を買ったことが記されている。表紙で冒険したことの弁解と主張が入り混じり、いったいどんな表紙絵だったのか興味津々なのだが、簡単には昭和24年2月号には出くわせない。
 
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 古本屋で手に入れた昭和23年9・10月合併号は、中川一政画伯の三色刷り。太い木の枝と人物を上から眺めている。大胆でシンプルな構図は素晴らしいと思う。表紙ひとつ取っても、このころの「笛」の編集者の奮闘は好感が持てる。