2022-01-01から1年間の記事一覧

ねずみと「ぬ」の字

平熱なのだが、訳あってクリスマス明けまで禁足状態になってしまったので、猫とまた自室で何かを考えて過ごすことにした。 猫も関心を持つだろうから、落語「金閣寺」に出て来るネズミの絵について考えてみた。 ある寺の小僧が、門前の花屋で≪実は私はただの…

人間万事西行の銀猫

古書肆から取り寄せた「川柳狂詩集」(昭和3年、有朋堂書店)を流し読みして、ある川柳を見つけた。文政年間(1818-1830)の作品の部にあった、一之という作者のものだ。 煙管(きせる)がなんぼ出来ベイナア此猫で 西行の銀の猫 源頼朝から西行が…

升おとしと借りた猫

帰宅すると、猫が木桶の中に納まっていた。 細に、いくらなんでも飯台はまずいだろう、と注意すると、飯台ではない、贈答で溜まった京粕漬「魚久」の木桶、捨てるのはもったいないので、猫用にした、という。 猫は丸いものが好きで、丼に入った猫の写真が一…

柳亭種彦の「草より出でて」の考証

「武蔵野は月の入るべき山もなし草より出でて草にこそ入れ」 この歌は、和歌ではなく室町時代に作られた俳諧連歌ではないか、と江戸時代後期の戯作者柳亭種彦が鋭い指摘をしている。 「用捨箱」(天保12年、1841刊)という考証随筆集で「俳諧の句を狂…

月の出づべき山もなし 

遊びに来た3歳の孫娘と屋上で皆既月食を見た。双眼鏡でうまく月が見られなかったせいもあってか、飽きてしまい「かくれんぼしよう」といってぱたぱたと屋上を走り回る。月が全部隠れたと伝えると、「お月さんが可哀そう」といってまた走り出した。 皆既食は…

秋櫻子と川田順の「との曇り」

洋画家船川未乾が装幀した歌人川田順の歌集「山海経」(大正11年三版、東雲堂書店)をあらためて手にした。川田の大和路の歌を読んで、なにか似た世界を思い起こした。俳人水原秋櫻子の昭和初期の句だ。 秋篠寺 あきしのの南大門の樹(こ)の下は蛇も棲む…

なぞなぞを解いた芭蕉の句

「猫多羅天女」について書いた鳥翠台北茎についてもっと知りたいと思ったが、金沢の俳諧師であることしか分からない。 「北国奇談巡杖記」には、加賀国の、十人が橋に居ても九人しか水に映らない「九人橋の奇事」や、殺され沼に沈められた老僧の叩く鉦鼓が夜…

空飛ぶ猫多羅天女

空飛ぶ猫、空飛ぶ化け猫の話が江戸時代の後期に書き残されているのを知った。 文化年間(1804-1818)に刊行された鳥翠台北茎(ちょうすいだい・ほっけい)「北国奇談巡杖記」に、「猫多羅天女の事」という話が掲載され、空飛ぶ猫が出てくるのだ。 …

古本に挟まっていたカラヤン公演の名残

昼すぎ事務所を出て、神田神保町あたりを散策する。街は女子高生、大学生、本探しの高齢者、そして海外からの観光客で賑わいが回復しつつある。古レコード店の御主人も何年かぶりに雑貨の仕入れにネパールへ出かけ、戻ってきた。 古本街の店外に置かれている…

猫と花瓶を巡るたたかい

我家の猫はノラだったせいか、飼い主の私達以外には心を許さない。息子の家族もダメで、玄関でピンポーンとなると、押し入れなどに隠れてしまう。孫娘が探し出して触ると、猫は緊張して目を瞠り、後ずさりする。 最近は、夕食を息子一家4人で食べに来ること…

左団次のページェントと歴史学者の証言

「漢委奴国王」の金印について、なぜ本物の金印が2つ存在するのだと、意味深な文章を書いた学者がいる。東洋史学の宮崎市定京大名誉教授(1901-1995)。92年刊行の新書の一節で目にした私は気になって仕方なかったが、詳しいことはその後も書か…

ハンベンゴロウと林子平

久しぶりに知人と渋谷道玄坂の店に繰り出した。若い男女の人波をかいくぐって、坂を上っていった。店の客は年配ばかり。女将さんもかっぽう着姿。渋谷にいることを忘れさせた。 おでんがあったので、はんぺんを頼んだ。「ハンペン」と口に出しながら、「ハン…

70歳の白箸翁と深草の土器翁

事務所近くの理髪店は主人を入れて3人が働いて居る。客としては、誰に当たるかで、若干髪型が違ってくる。3人のうち、ひと月位経っても、髪型が崩れないのが唯一人の女性理髪師だ。 今回店に行くと、その女性がおらず2人で回していた。主人は「病院へ検査…

高山彦九郎「京日記」から見えること

上皇さまが皇太子のころ、来日音楽家の御前演奏会の手伝いで東宮御所に入ったことがある。ガラス張りの広間で、指揮者の渡辺暁雄さんの司会者で、両陛下と数十人のお客さんが鑑賞するなごやかな会であった。 演奏後、歓談の場があって、招待を受けていた旧知…

秋里籬島と藤貞幹の密かな関係

江戸中後期に多くの名所図会を編輯した秋里籬島という人物も謎が多い。 藤川玲満氏の「秋里籬島と近世中後期の上方出版界」(14年、勉誠出版)を取り寄せた。同書によると、近年秋里の出自に関する史料が発見され、祖先は鳥取市にあった因州秋里城主に仕え…

ほろ苦い立原翠軒の上洛

ささやかな地異は そのかたみに 灰を降らした この村に ひとしきり 早逝した昭和の詩人立原道造の「はじめてのものに 」は、いまも出だしだけは覚えている。浅間山の小噴火で、ふもとの村に灰が降ったのを、こんな風に表現するのだった。 同じ学び舎で建築家…

不思議な鳥瓶子と貞幹

「都林泉名所図会」(寛政11年)で真葛が原の俳諧師西村定雅、富土卵の作品を取り上げた秋里籬島のことを前に書いたが、彼は好古家で考証学者の藤貞幹とも接点があった。 秋里は、安永9年「都名所図会」6巻を刊行し大ヒットを飛ばした人物。都の東西南北、…

那須國造碑と藤貞幹

江戸後期の京都の考証学者、藤貞幹のことを考えてみる。 彼の「好古小録」(寛政7年、1795)に掲載された「下野国那須郡那須国造碑」を眺めながら、どういう人物だったのだろうかと想像した。 この碑は、700年に亡くなった那須直韋提を子供たちが追…

シナモンが入っていた南蛮粽花入

10年前の誕生日祝いに、神保町の店で細に買ってもらった「南蛮・島物」の花入壺は机の上に置いてあるが、孫娘がやって来ると、クレヨンや色鉛筆を壺の中に詰めこむ悪戯をして遊んでいる。 頑丈なので、ちょっとのことでは壊れそうにないから、まあ許してい…

金印と藤貞幹の篆刻知識

江戸時代中、後期の京都の好古家であり、考証学の学者でもあった藤貞幹についても、金印偽作疑惑を調べてみることにした。 京都の佛光寺の塔頭久遠院に生れ一度は得度したが、18歳になって還俗した。仏教を嫌いその後「無佛斎」を名乗った。 自ら彫った「…

金印偽造説と高芙蓉の潔白に就いて

京都東山の真葛が原の住人だった俳諧師西村定雅、富土卵や、双林寺の芭蕉堂などについて調べてきたが、真葛が原には「大雅堂」があり、画家の池大雅(1723-1776)が、画家の玉瀾夫人と暮らしていた。 拾遺都名所図会 蕪村は大雅と交流があり、「平…

長庚(蕪村)のうつし絵と松茸

西村定雅が書いた「長庚(蕪村)がうつし絵」のことが、ぼんやりながら分かってきた。 蕪村は天明3年(1783)に亡くなる直前に、宇治田原を訪ねたことを俳文「宇治行」に記していた。 山里で茸狩りをしたものの、皆は先を争って探しに出て、蕪村は遅れ…

猫好きの老鼠堂

今回も猫と一緒に考える。 俳諧師と猫の事。 俳諧の世界も、いきなり江戸から東京に変わったわけではない。正岡子規が始めた俳句刷新の動きは、明治30年(1897)に「ホトトギス」の旗揚げによって本格化していく一方、30年代になっても江戸時代の面…

来山の女人形と定雅の竹婦人

茶人で茶の本を多く残した高原慶三(1893-1975)が、俳諧師西村定雅と大伴大江丸のことを取り上げて書いていた。 高原の茶人としての考えは、利休以来、茶道に侘びが重視され、艶が忘れられている、「艶なればこそ侘がある、侘あらばこそ艶がある」…

西行人形と初辰猫

五代目市川團十郎には猫の逸話はなさそうだったが、五代目が狂歌で名を出した鯛屋貞柳の作品を調べていると、西行の銀猫の逸話を狂歌にしているのを見つけた。 平泉に向かう西行が途上の鎌倉で頼朝から銀作猫を貰ったが、遊んでいた子供にあげてしまった話は…

五代目團十郎と大江丸の行き違い

初代、二代の市川團十郎と猫について調べているうちに、五代目の團十郎を大坂の俳諧師大伴大江丸が訪ね、その様子を紀行(あがたの三月よつき)に残しているのを知った。 大江丸には、歌舞伎を句にしたものがあり、團十郎が出て来るものもある。 七夕の今宵…

猫飯と犬車の話

子供時代は夏休みになると、祖母の大阪の家に泊まりに行った。小学生の姉と2人きりで出かけたこともある。「こだま」は、当時東京―大阪間6時間50分かかったので、心細かった。出発前に、母が心配して列車に乗り込み、見ず知らずの隣席の男性に「この子た…

二代目團十郎の猫

猫好き講談師、猫遊軒伯知(1856-1932)について触れたが、猫の講談では、桃川如燕(ももかわ・じょえん、1832-1898)という先輩の大物講談師がいた。 鍋島藩の化猫など猫をテーマにした「百猫伝」の講談が評判を呼び、明治天皇の御前で口…

猫の目時計の歌があった

猫の目時計について、金井紫雲(1887-1954)が、興味深い古歌を紹介していた(「動物と芸術」昭和7年、芸艸堂)。 六つ円く、五七卵に四つ八つは柿のたねなり、九つは針 というものだ。 六つ=午前6時 猫の目は 円 五つ=午前8時 猫の目は 卵 七…

猫恐怖症の猫怖ぢ大夫

私の姉は、子どもの頃、激しい鳥恐怖症だった。鳥の翼が怖いらしく、小鳥でさえ見ると逃げるのだった。私にはその怖さが理解できなかった。ある休日の朝、親戚の男性が、撃ちとった雉を持って現れた。私は思いついて、それを手にすると、まだ寝て居た姉のと…