100年前の大仏写真

 猫と一緒に、1908年発行の本を引っ張り出して、確かめてみる。

 

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 英国の女流作家アリシア・リトルが著した清の時代の中国紀行「In the Land of the Blue Gown」(Mrs. Archibald Little)。この本に掲載された巨大な石仏の写真を思い出して、開いてみたのだ。甘えん坊になった猫が身を寄せてきて、隙あらば本の上に坐って、邪魔をする気配がする。古い本だから、猫にバラバラにされる恐れがある。

 

    写真の巨大な仏の顔は、頭や鼻の下に草が茂っているが、半眼の左目と筋の通った鼻が仏の風格をたたえている。崖の上に登って、巨大な顔が間近に見える撮影場所を見つけたらしい。キャプションは「KIATINGの巨大仏」とあり、撮影はOlin Cadyとある。

 

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 KIATINGは、嘉州だろうか。とすると、この仏は、ユネスコ複合遺産に指定された中国・四川省の「峨眉山と楽山大仏」の大仏ということになる。

 先ごろ、この世界遺産の磨崖大仏の写真を見て、100年前の本の大仏写真を思い出したのだ。

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 楽山の大仏は、唐代の713年から803年まで90年をかけて完成した超特大の大仏で、高さ71m、像高59.98mもあるのだった。中国にある同時代の他の大仏でも、最大が33m(敦煌莫高窟北大仏)。桁違いの大きさで、アフガニスタンバーミヤン石窟の西大仏(55m)よりも大きいのだった。

 もともと、木造建築で保護されていたが、明末に焼失し、彩色されていた大仏は風雨にさらされ、雑草に覆われてしまったのだという。

 

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 本を読むと、この大仏の図版がある章は、著者が岷江沿いの中国内陸に入り、細々と布教活動を続ける各教派のキリスト教宣教師たちを描く下りだった。

 彼女は、岷江が増水し、家が流され、犬が溺れるのを目撃し、渡河が3日遅れるなか、峨眉山にたどり着き、清らかな空気、美しい緑の光景に出会うのであった。三つの川が合流する地点楽山の、赤い砂岩の段丘に建てられた美しい堂宇、塔、そして巨大な崖に彫られた300フィート(90m、実際は71m)の仏像を見物。さらに2つの石窟寺院も訪れていた。詳しい印象が書かれていないのが残念だ。

 写真のキャプションには、「草が生えて眉毛、口ひげのようになっている」とある。

 

 革命後の2度の修復で、稚気あふれる容貌の大仏に変えられてしまった楽山大仏と、雑草まみれながら威厳のあった100年前の仏像の印象の違いにいささか驚きながら、大仏の本来の姿に関心がわいてきた。