埋もれているムクドリの才能

 ムクドリの大群が、郊外の町でうるさい声をあげ、住民が迷惑していると報道があった。一度、郊外の駅前でムクドリに出くわしたことがあり、道に落ちているその糞の量にびっくりしたことがある。 

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 その後、本を読んで、なんだかムクドリの扱われ方もかわいそうに思うようになってしまった。3年前に翻訳が出た「モーツアルトムクドリ」(ライアンダ・リン・ハウプト著、青土社、原著は17年「Mozart’s Starling」)。

 米シアトルに住む女性の作家(nature writer)が1尾のムクドリを自宅室内で飼って観察したものだ。

 

 本によると、ホシムクドリは、米国でも憎まれっ子で、「保護しないでよい」駆逐の対象なのだった。そもそも米大陸には生息していなかったが、NYの薬剤師が1890年、英国から80羽を購入。野に放ったために、全土に広がり2億羽まで繁殖してしまったのだった。

 

 農作物を食い荒らし(毎年8億ドルの被害だという)、群れが航空機のエンジンに吸い込まれ墜落事故を起こす。在来種の野鳥を駆逐するため、頼みの愛鳥家からも目のカタキにされる始末。

 

 ハウプトは、世間の目を気にしながら、夫とともに公園の公衆トイレの屋根の下の巣から雛を手に入れる。寝ずに雛に餌をやり無事成長したメスのホシムクドリは、なんとモノマネの天才だった。コーヒーミルで珈琲豆を砕く音、チンという電子レンジ音、家で音がするものは、全部再現して見せた。飼い猫の鳴き声もそっくりに真似るのだった。

 それも、やみくもに音を出すのではなく、著者やその家族へのあいさつ、コミュニケーションをとるために、発声していることが分かってくる。

 

 ホシムクドリは相当賢い動物なのだった。

 

 そして、この鳥を飼っていた18世紀の作曲家モーツアルト(1756-1791)に思いをはせ、著者はウィーンの旧居「モーツアルトハウス」を尋ねて行く。モーツアルトは、ペットショップでホシムクドリが彼のピアノ協奏曲17番の第3楽章のメロディーを歌っているのに驚き、購入した逸話が残っている。

 旧居には、当時の間取りを再現する模型があり、モーツアルト夫妻、2人の幼児、猫とともに、ホシムクドリの鳥籠が置かれているのを発見して、著者は喜ぶ。部屋の間取りを確かめながら、モーツアルトホシムクドリがどの部屋、どの空間で暮らしていたのか想像を巡らせるのだった。

 おそらく、ホシムクドリは、モーツアルトの飼い猫の声も真似したのだろう。ホシムクドリと暮らした時が、モーツアルトのもっとも脂が乗っていた時期に重なり、傑作を量産したのだった。

 欧州のホシムクドリと、日本のムクドリは見た目こそ違うが、同じようにモノマネの天才として資質は持っていると推測できる。群れなければ、こんなに嫌われないのになあ、と思いつつ、彼らの才能が認知されていない現状が実に残念に思えてくる。

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 我が家の猫の、モノマネも聞いてみたい。