子猫と椋鳥

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 届いた「完訳クルイロフ寓話集」には、猫が登場する話が9つあった。

 

 イソップなどギリシア時代からの物語なのか、オリジナルなのかは分からない。

 

 猫は、食糧を盗み食いする存在として描かれるのが大半だが、川カマスに忠告し命を助ける猫、狼に村人のことを教えつつ喝を入れる猫、人間と鷹と犬と一緒に団結を誓い合って猟に出る猫、といろいろだ。

 

 「子猫と椋鳥」という話に関心を持った。

 鳥籠に飼われている「哲学者」の椋鳥と、子猫は仲良し。子猫はオスで大柄だった。ご主人様が忘れたか、餌がもらえない子猫は、空腹のためないていた。

 椋鳥は、子猫に「お人よしだね。鳥籠の中にかわらひわの雛がいるじゃないか」とそそのかした。

 子猫は「僕には良心がある」とためらったが、哲学者の椋鳥は「弱者の偏見だよ。強いものは何をしようと自由さ」と教える。

 教え通り、子猫はひなを食べてしまったが、空腹は満たされない。「ありがとう、あなたは私によいことを教えてくれました」と椋鳥も食べてしまった。

 

 哲学者気取りの椋鳥は、自分が、カワラヒワと同じ鳥の仲間だということを忘れていたようだ。

 

 わが家の近くの並木や電線に、夕方になると群れでやって来て、白い糞を道端に落としている椋鳥。ロシアやヨーロッパでは飼われていたらしい。そう、モーツアルトがペットとして椋鳥を飼い、愛玩していたではなかったか。

 

 「モーツアルトムクドリ」というハウプトという人の著作(青土社、2018年)があるようだが、読んでいない。モーツアルトを真似て、自分もムクドリを飼った体験記らしい。

 

 日本の街中で見かけるムクドリ(GREY STARLING)は、欧州におらず、ホシムクドリ(THE STARLING/COMMON STARLING)が住んでいる。ローマ時代の博物学者、大プリニウスが記し、ウエールズの中世の物語「マビノギオン」に登場するのは、ホシムクドリということになる。ホシムクドリは、モノマネの特技を持っているのだった。

 

f:id:motobei:20210117164050j:plainBewick' British Birds から

 

 モーツアルトが店で買い求めたのも、モノマネのせいだった。ちょうど作曲を終えていた「ピアノ協奏曲17番」の第3楽章の冒頭のメロディを、ムクドリは歌ったらしい。3年間飼い、亡くなった時に弔辞を書いたほど愛したという。

 

 前に記したピアニストのパデレフスキは、公演ツアー中に豪メルボルンで見つけたモノマネ上手のオウムを買い求めた。人間の言葉をすぐ覚えるので、「アーチストだ」と感嘆し、コッキ―・ロバーツと命名、米ツアーにも同行させ、スイスの住まいまで連れ帰った。音楽家はモノマネ鳥に惹かれるようだ。

 

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 寓話に出てくる子猫が食べた椋鳥も、ホシムクドリだろう。哲学者の飼鳥であり、音楽家の椋鳥ではなかったことを願うばかり。