ブログや猫本「神保町カプリッチョ」に書かせて貰った神田神保町の古レコード店の看板猫が亡くなった。
ご主人から訃報が届いた。長い闘病生活の後、土曜日の夜に主人に看取られ息を引き取った。11歳3ヶ月。猫好きの客からも、近所で働く人たちからもイッチャン、イッチャンと呼ばれかわいがられた雄猫だった。
この店に来る前は、確か日光街道沿いの床屋さんに飼われていた。車の激しい通りに出て、交通事故に遭い前脚を失った。床屋さんから猫を引き取った動物の保護施設からご主人に話があり、事情を聞いて新しい飼い主になる決断をしたのだった。前の飼猫クルクルを神保町交差点での交通事故で失ったご主人に、なにか思うところがあったのだろうと、我々は想像した。
店の看板になった猫は、レジの奥の棚を住処にしていたが、呼ぶと出てきた。3本足でジャンプしてカウンターに上がり、さらにレコードが並ぶ床に飛び降りてくることもあった。前向きに生きているなとの印象を与えてくれた。
ブルーとグリーンと左右目の色が違い、猫の魅力のひとつである「神秘性」を保っていた。なでられるのが好きで、長い間じっとしてなでられていた。素直で性格のいい猫だと、なでるだけで分った。
ただ、店の横の道を音を立てて車が通る時、おびえてたちすくむことがあり、事故を忘れられないのだと思った。
3ヶ月前から病状が悪化し、獣医師から指導を受けてご主人が自宅で1日2回の点滴をして治療に当たっていた。買い出しのためのネパール出張の際も留守居とPCでつなげて猫に話しかけていた。
土曜の夜に急変後も2時間頑張って、懸命に生きようとした。
最期の最期、ミャーとひと鳴きして主人に別れを告げてこの世を去ったという。
「私にはもったいない猫でした」とご主人。
私に追悼の詩を書く才があればいいのだが、あいにく持ち合わせない。一文を草してイッチャンの冥福を祈ることにした。