フクロウのアイスクリーム店

梟をねこと(ど)りといへるは、かれか(が)頭の、猫に似たるよりいふ、と人みなおもへり

 江戸時代の国学者中島廣足の文章を前に記した。廣足はフクロウをネコドリと西国で呼ばれていることをあげつつも、名の由来はフクロウの頭が猫に似ているからではない、と主張したのだが、私は江戸時代には一般的にフクロウの頭が猫に似ていると思われていたことに面白みを感じた。

 

 先ごろ、昭和8年発行の藤沢衛彦「鳥の生活と談叢」(啓松堂)を読んだところ、フクロウの章があり「最近(1928年)米国ロスアンゼルスの、さるアイスクリームパーラーが、梟の家を号して、“Hoot Hoot I scream”と掲げた看板が、はしなくも世界の評判を買ふ程有名になった」と記してあるのを見つけた。

 LAのアイスクリーム店が世界で(当然日本でも)話題になったというのだ。アイスクリームとアイ・スクリーム(私は叫ぶ)の語呂合わせが面白がられたこともあると記している。しかし、昭和の初めに日本で話題になった理由が、語呂合わせだというのはピントこなかった。店の画像を探した。

 

 語呂合わせでなく、フクロウの形をした店舗が面白がられたのだと気が付いた。

「Hoot Owl Cafe」という店名で、入口に「HOOT HOOT / I SCREAM」の看板が掛けられている。

 

 HOOT HOOTは、梟の「ホー、ホー」という鳴き声のこと。フクロウが「ホーホーと私は大声で鳴く(アイスクリームを食べたいと)」といったニュアンスだろうか。

 調べてみると、少し前の1925年ごろからこんな歌が「ノベルティ ソング(コミカル、ユーモラスな歌)」として米国各地で歌われていたのだった。1927年に、ハワード・ジョンソンら3人の作者で楽曲登録され、ジャズのスタンダートにもなっていく。

「I scream,you scream、we all scream for icecream」

≪私は叫ぶ、あなたも叫ぶ、私たちみんな叫ぶアイスクリームが欲しいと≫

 

 LAのアイスクリーム店は、この歌を取り込み、かつフクロウを店舗のキャラクターに起用したのがよかったようだ。

 藤沢氏は、米英仏の伝説によると、「ホウーホウー」というフクロウの鳴き声は、「自分は寒い」という意味なのだという。昔鳥類は火のない暮らしをしていたが、ミソサザイが火を取りに天に昇って行き、自らの羽を焦がしながら火を地上にもたらした。鳥たちはミソサザイに感謝して羽を一本ずつ捧げたが、冬の寒さに耐えられないフクロウは拒否した。そのため、今ではフクロウは年柄年中寒がり、独りぼっちで暮らしているのだと。

 寒がりのフクロウとアイスクリームの冷たさとがうまく響き合ったということらしい。

 私はそれより、この梟の店を見ながら、梟の頭と猫はやはり似ているなあと思ったのだ。

 

(78年ヒット曲、榊原郁恵の「夏のお嬢さん」にも、アイスクリーム、ユースクリームの一節が出てくるが、チュウ、チュウチュチュと、アイスを食べる擬音のような歌詞も加え、本歌取りとして成功した楽曲だと思った。作詞笠間ジュン)