「猫頭巾」と「猫をかぶる」

 猫頭巾という頭巾があるのを知った。

 江戸時代に火消しが火事場で被った丈夫な頭巾だとのことだった。火の粉や熱風を防ぐためのものらしい。しかしー。

 

 江戸時代より100年以上前の1499年に編集された俳諧連歌撰集「竹馬狂吟集」に出てくる「猫頭巾」は火消しの猫頭巾とは違っていた。(俳諧連歌は、前句の七七の題に、五七五の付句で答えるもの)

 

前句

 座禅の人のねずみをぞ追ふ

付句

 僧堂にかづきつれたる猫頭巾

 

 《心頭滅却して座禅しているはずの僧侶が、鼠を追いかけているよ。/

 僧堂にも被ったままやって来る猫頭巾の連中だからだろうよ》

 

 新潮日本古典集成「竹馬狂吟集」の註には「猫頭巾は僧兵の袈裟頭巾の変形と思われ、目だけ出してかぶる頭巾」とある。

 袈裟頭巾とはー。「法師武者の戦場に兜の上に蒙る頭巾」(俚言集覧)。

 

 猫頭巾もまた僧兵(法師武者)が被ったものなのだろう。僧堂でねずみを追う猫頭巾はそんな連中ということになる。

 

 

 

 新潮日本古典集成には、猫頭巾として1351年作の「慕帰絵詞」巻6に描かれた頭巾を紹介していた。

 絵のなかで、騎乗の人物がかぶっている頭巾がそれで、短いつばのようなものがあり、左手の白い頭巾姿に比べてみると特徴が分かる。

 

 目だけ出して肩まで頭全体をすっぽりと覆うところが、江戸時代の火消しの防火帽に似ているので、猫頭巾の名称が継承されたのだろうか。但し、どうしてこの頭巾に猫の名がついたのかは分からない。

 

 話は変わるが、私はずっと「猫をかぶる」という諺の由来が納得できなかった。意味は「本性を隠しておとなしそうに見せること」。猫は一見おとなしそうに見えるからと解釈されているようだ。それでは、猫の本性は化け猫なのだろうか。

 倭訓栞に「猫根性」という言葉が出ていて、「諺に猫根性といふは人の心の貪欲を匿し外に露ハさぬ者と云」とある。「猫根性」から「猫をかぶる」が生まれたのだろうが、いっそのこと、猫が猫頭巾なら分かり易い。猫頭巾をかぶって軍装のかぶとを隠していることから、猫をかぶるー。僧の姿をして実は荒くれものであるのを猫頭巾が隠している。

 

 袈裟頭巾と猫頭巾の関連がいまひとつはっきりしないが、猫頭巾のことがもっと分かってくると面白い。