「かぶねこ」と「ごんぼう」の短尾猫

 浮世絵に描かれた猫の尾を長い尾、短い尾、ボブテイルの3つに分けたが、短尾とボブテイルを一緒にして、「短尾」として括るケースが多いようだ。確かにbobtailの意味には、無尾のほか短尾も含まれている。

 

 ただし、浮世絵で歌川国芳が好んで描いた猫の短い尾を、ボブテイルに含めていいのか抵抗がある。

 

   

 江戸時代に俳諧師越谷吾山が編纂した方言辞典「物類称呼」(安永4=1775)の猫の項を探して見た。尾の短い猫の方言も出ている。

「尾のみじかきを土佐国にては

 〇かぶねこを称す

 関西にては〇牛房(ごんぼう)と呼ふ

 東国にては〇牛房尻といふ

 【東鑑】五分尻とあり」

 

 私は、次のように解釈してみた。 

 かぶねこは、蕪ねこ。野菜の蕪は、ボブテイルの丸いふさふさした尾の形をしている。

     

  

 

 ゴンボウ尻は、鎌倉時代の「ゴブ尻」に由来し、尾が通常の長さの半分(五分)であることから出来た言葉であり、国芳が描いた猫の尾がこれにあたるのではないか、と考えた。

     

 江戸時代の戯作者田宮仲宣が、「愚雑俎」(文政8=1828年)収録の「大船の猫」で長い尾、短い尾の猫について書いていたのを知った。

「大きな船には鼠が多くいる。昔大蔵経の経典を日本に舶来するとき、鼠が齧らないように猫を乗せた。

 大阪の四天王寺太子堂の門に猫を彫物としたのも、京の東寺の外構えに猫を彫り付けたのもそんな由来があるのだった。

 その舶来の猫は胤を残し、源氏物語に出てくる猫もその末裔であり、今も京都の大半の飼猫はこの舶来の唐猫なのだ。

 大坂に飼われるものは和種が多い。その証拠に、京のものは尾が長く、浪花のものは尾が短い。尾の長短によって見分けることができる」(現代語にしてみた)

 

 尾が長いのは、大陸からの舶来の唐猫

 短いのは、在来の猫という説だ。

 

 上記にでてくる四天王寺太子堂の猫は、聖徳太子を祀る聖霊院の「猫之門」の上欄に彫られた猫。大坂冬の陣で類焼し、元和9年(1623)に再建された門の猫で伝左甚五郎作とのこと。それを仲宣は見ていたらしい。その後2度焼失し、現存するのは昭和54年に再建された門の猫。当時の面影を伝えているのだろう。目をつむって横になった猫は、確かに長い尾を持っている。

 

 

 京都・東寺の外構えの猫は、宝暦12年(1762)に刊行された「京町鑑」(白露亭主人)に記された「猫が辻」の猫らしい。大宮通の南端の東寺の辰巳(南東)の角に「塔の角と云(ふ)瓦に猫」の像があったのだという。そのために俗に「猫が辻」と言われたとも。おそらく、この瓦の猫も尾が長かったのだと思われる。

 

 仲宣の文章では、1800年代の初め頃、大坂では尾の短い猫が多かったことも分かる。「ゴンボウ」と呼ばれる国芳描くところの猫だったのではないか。