俳諧

金危危日の猫の絵

花冷えの午後、神田神保町の外れにあるY書房の前を通ると、若いご主人が外で寒そうにしていた。 声を駆けると、「締め出されてしまって」。 事情を聞くと、昼休みに店のシャッターを半分閉じて内側から鍵をかけ、脇のビルの玄関口から出たはいいが、階上の…

松本たかし主宰「笛」の表紙猫

猫は天気がよいと窓辺で午後を過ごし、そうでないと我が部屋のクロゼットの上段に潜り込んでじっとしている。休日に、猫が窓辺で脚を伸ばして横になっていたとき、毛並みをなでてみた。春めいてきた日差しを浴びて、体全体があたたかくなっていた。 日差しを…

法科をほうかと読み替えて

駿河台下の銀杏並木がようやく色づきだした。銀杏の句には、有名な 銀杏散るまっただ中に法科あり という山口青邨の東大本郷の銀杏を描いたものがあり、ついつい思い出してしまう。大昔、小学校の授業で、俳句の時間が週一回あったので、五七五が身体に染み…

3-40年代台湾と白樺の残り香

古本屋で俳人富安風生(1885-1979)の「霜晴」(昭和19年3月15日発行)を買って、家に帰って目を通すと、なんだか見てはいけないような本だった。 「温和な作風」で通り、芸術院会員にもなった俳人は、日本軍の真珠湾攻撃の句を先頭に、折々の…

野良猫、野良犬と山頭火の交流

青空文庫で、俳人の種田山頭火の日記に目を通すと、たくさん心惹かれるものと出くわした。 例えば、犬と猫との逸話。1940年10月11日に松山市の一草庵で57歳の生涯を終える前に、犬と猫が「一草庵日記」に登場する。ともに野良である。 10月2日…

古川敬さんの「山頭火の恋」

毎日、同じ通勤電車の同じ車両に決まって乗って来る男性会社員が、今日は顔を見かけなかった。なにかあったのか。あるいは、今朝がた大地震があった北海道の出身なのだろうか、と気になった。 山頭火と工藤好美さんのことを書いて後悔している。書く前に、古…

工藤好美さんと山頭火

分け入っても分け入っても青い山 笠にとんぼをとまらせてあるく 知人が放浪の俳人、種田山頭火を題材に短編映画を撮ったので、上映会に行ってきた。知人の来し方と山頭火の放浪人生を重ねていた。 山頭火については、自分なりにずっと気になっていたことがあ…

恒友、泊雲の松茸狩

細が入院する病院に通いながら、高円寺の古本屋で見つけた森田恒友の「画生活より」を読んだ。恒友は、今まで幾度か触れてきた大正、昭和初期の画家で版画家だ。 パリ留学したのはいいが、第一次大戦下のパリに到着。緊迫する戦況の中、心酔するセザンヌの郷…

ご近所の大聖堂サボール

事務所から坂を上るとニコライ堂がある。信者以外の大聖堂の立ち入りは、ずっと出来なかったが、ある時から拝観料代わりの少額の「お布施」で、大聖堂の中を見ることができるようになった。元日に息子と初詣の折りに立ち寄り、絢爛とした内部装飾とイコン像に…

たけのこラッシュと大江丸

今年は陽気のせいで、タケノコの伸びも早いようだ。タケノコを呉れる人が連続し、断っても家まで強引に車で運んできたりする。玄関に運ばれたタケノコを見たとき、発達しすぎて固くて食べられないのかと心配したが、包丁を入れると柔らかい。 子供が小さかっ…

カラフト犬の犬ゾリについて犬飼さんの記述

近所に住む、サングラス姿で派手な服装をする老齢の女性と知り合って、立ち話をするようになった。 ある時、おばあさんが樺太の落合生まれだと知った。珍しいので、「故郷に帰ってみたいですか」と聞いた。「すぐ北海道に移ったし、あまり思い出がないんです…

売れ行きを心配する波郷の編集後記

先輩が歌舞伎の本を秋に上梓するが、初版が500部。それも売れるか心配だから、数冊買ってほしいと飲みながら頼まれた。いいでしょう、いいでしょうと仲間で励ました。出版不況で比較的大手の出版社でも、こんな初版の数になってしまっているのだ、と複雑…

冴え返りつつ春なかば

寒い日が続きながら、春も確かなものになってきた。 冴え返り冴え返りつつ春なかば 泊雲 今年は、例年以上に、西山泊雲の上の句を思い浮かべることが多かった。 泊雲のことは前に触れたが、丹波二泊のもう1人、泊雲の弟で、俳人の野村泊月(1882-196…

英国のスチュワート氏まで恵方巻

先週の水曜日の夜、スチュワート先生に会うと、節分に北北西を向いて、恵方巻を食べたのだが、どうして恵方は毎年変わるのか、と聞かれた。 「ひょっとして、コンビニで買ったんですか。商売に乗せられてますね」とこたえると、 「いや、自宅で○○子と、海苔…

ミカンを食べながら沖縄のクネンボを思う

与那原恵さんの「首里城への坂道」の中に、宮古島の子守唄「東里真中(あがずさとんなか)」が出て来る。 蜜柑木(ふにりあ)が うが如んよ 香ばしゃ木が うが如んよ 島覆い 照り上がりよ 国や覆い 照り上がりよ 蜜柑の木が成長するように、香ばしい木が成長…

「酒屋の猫」の童歌と一茶の猫の句

江戸時代に「酒屋の猫」という童歌があった。今は歌われていない。 山中共古「砂払(上)」(岩波文庫)で見つけた。 〽人まねこまね 酒屋の猫が 田楽焼くとて 手を焼いた 文化9年申、長二楼乳足(ちょうじろう ちたり)の洒落本「世界諸事花の下物語」の自…

バレンタインデーに「西行の日」を想う

今年のバレンタインデーはいろんな意味で寒かったけれど、あとひと月もすれば、花の季節となる、まあいいか。 陰暦2月15日か、16日は確か西行忌だ。 願いがかなうなら、桜の下で死にたい、その如月の満月のころ、と歌った西行法師は、その通り、その時…

オオタカはポイヨー、ポイヨーと鳴く

今は昔、新潮文庫から俳人の自選句集が沢山でていた。 草田男、波郷、誓子、草城、蛇笏、楸邨。 文庫には灰色の帯がついていて、水原秋桜子自選句集は、ことに大事によんだ。 登山や旅をこのんだ秋桜子には、鷹の句も多い。 雲海や鷹のまひゐる嶺ひとつ (赤…

トビとタカ―気になる普羅の句

ワシタカの生態を、俳句で発見することがある。 鷹と鳶闘ひ落ちぬ濃山吹 奥飛騨を旅して、俳人の前田普羅が、目撃したのは、春先、鷹と鳶が争いながら、落下する姿だった。この句をおさめる「飛騨紬(ひだつむぎ)」は、戦後まもなくの1947年に靖文社か…

嵯峨野から泊雲、芋銭へ

今年は京都でも紅葉は駄目だったと、久しぶりに会った嵯峨野の寺の息子さんが言った。 我が墓のある、その寺には、句碑が沢山ある。 なかでも、自慢なのは、秋桜子、誓子、素十、青畝の4Sが登場するまで、大正、昭和初期と「ホトトギス」で活躍した西山泊…