オオタカはポイヨー、ポイヨーと鳴く

 今は昔、新潮文庫から俳人の自選句集が沢山でていた。
 
イメージ 2
 草田男、波郷、誓子、草城、蛇笏、楸邨。
 文庫には灰色の帯がついていて、水原秋桜子自選句集は、ことに大事によんだ。
 登山や旅をこのんだ秋桜子には、鷹の句も多い。
 
         雲海や鷹のまひゐる嶺ひとつ (赤城の秋=葛飾抄)
          海の門のしぐるる岩に鶚(みさご)かな (三崎港新春=葛飾抄)
          鷹まへり疾風がやぶる霧のひまに(磐梯新秋=古鏡抄)
          初あらし鷹を入江に吹き落す(同)
          萱の門据ゑてぞ涼し鷹鳴ける (春日山城跡=古鏡抄)
          夏山の杉の秀翔けて鷹鳴ける (同)
          鷹のこゑ蓮に落ち来る三たびまで (同)
          長七郎岳舞ひいでし鷹や躑躅野に (赤城山探鳥行=磐梯抄)
          鷹舞へり梅雨雲の上に又下に (同)
          鷹舞ふやいとしき仔馬尾根に立つ (同)
          大鷹のこゑはるかにて新茶の香(洗硯=重陽抄)
          鳶乗せて稲舟独り流れゆく (大和路・近江路=帰心抄)
          鳶老いて時雨るる杭を幾羽占む (同)
          春の鷹松まひいでて瀞碧し (惜春海景=帰心抄)
  14句ある。
 「とび」は句にしばしば登場する人気ものだが、「みさご」「おおたか」をよみこんでいるのは、秋桜子の特徴ではないか。
 鷹の声の句もあり、とくに声でオオタカが識別できた人だったことがわかる。
 
イメージ 1
 
 秋桜子の「十二橋の紫陽花」をめくると、昭和27年5月の旅日記があり、オオタカの声のことがでてくる。
 
 以下、広島・宮島での、1952年5月28日の項。
 「洗面してゐると、大鷹の声がきこえる。いかにも端午の弥山にふさわしい感じである。大鷹はいささか哀調を帯びたするどい声で、「ポイヨー、ポイヨー」と鳴く。四、五年前までは八王子の家の裏山でよく鳴いてゐたが、近頃は殆どきかなかったので、今日は実に久しぶりである。
  端午とて弥山の鷹の声すなり
といふ句が出来た」
  八王子の自宅周辺で、オオタカの声はなじみだったのだ。
 
 ポイヨー、ポイヨー 
 YOUTUBEで、オオタカの鳴き声をたしかめると、たしかに、ポイヨー、ポイヨーときこえる。
 鷹ひとつとっても、大した俳人だったのだ、秋桜子はー。