春野菜こごみのおすそ分け

 f:id:motobei:20210426144849j:plain


 近所の奥さんから春野菜の「こごみ」を頂いたので、お浸しにして鰹節をかけて食べた。アクもなく、新鮮でおいしく、何本も食べた。

 

 群馬県沼田にある奥さんの実家から大量に届いたので、おすそわけ、とのことだった。流通を通さないで得る、こうしたものが、実に贅沢に思える今日この頃である。(天ぷらにしてもよかったかな、とも思う)

 

 こごみの若芽は、ぜんまいやわらびのように、頭が丸まっているが、いちばんきちっとした渦を巻いているのが、このこごみだ。

 成長すると、小さな、「草のソテツ」のようになるので、「クサソテツ」と呼ばれているそうだ。ダチョウの羽毛にも似ているので英名はOstrich Fern(ダチョウシダ)」。

 

f:id:motobei:20210426144949j:plain

 

 春野菜では、フキノトウ、タラノメ、ウドなどもよく食べるが、気になっているのがイタドリ(虎杖、スカンポ)。食べたことはあるのだろうが、意識して食べた記憶がない。

 

 前に書いた「日本歳事史 京都の部」の、4月の歳事「更衣」の次の項目が、「虎杖狩(いたどりがり)」だったので、興味を持って読んでみると。

 

四月一日 虎杖狩 

今日(17世紀後半にあたる)貴船神社では唐櫃七合に海藻魚鳥種果菜(かいそうぎょちょうなづな)を入れて奉る。上賀茂神社司は騎馬で参向、帰途市原野連理芝で虎杖を取り、その大小多少を競ふのである ≪雍州府志≫ 今(大正11年)この儀はない。現今は六月一日午前官祭が行はれ午後私祭を執行、神輿は明治四十一年から渡御老若男女供奉して午後九時還幸する。」

 

 江戸時代には、太陰暦四月一日上賀茂神社の神官が馬に乗って、鴨川の上流にある貴船神社の「貴布禰御更祭」に出席するのが習わしだった。(この祭は、貴船神社の祭神、水の神のたかおかみに、御饌を奉納するものだ)その帰途、市野原で、神官らはイタドリを採集し、数、長さを競争したのだった。それが「虎杖狩」。

 

 イタドリは、タケノコ状の新芽、若い茎が食用になるのだという。皮をむき、熱湯を注ぎ、水を頻繁に代え、一晩水につけてアクを抜く。ガンモドキなどとの煮物にも、肉と一緒にさらっと炒めてもよさそうだ。高知県では、塩漬けにして一年中食べるのだという。

 

 市原野で採ったイタドリは、上賀茂神社に奉納され、その後、神職らが食べたのではないか。鞍馬川沿いの市原野は、上賀茂神社の馬や食糧の補給基地だったようだ。市原野のイタドリは、春を告げる野菜として、いにしえの上賀茂の社人は楽しみに待っていたのだろう。

 

 そうそう、虚子門の俳人で、

ぜんまいののの字ばかりの寂光土」

「約束の寒の土筆を煮て下さい」

 などの俳句(ともに春野菜!)で知られる川端茅舎(1897-1941)には、

虎杖いたどり)を啣へて沙弥や墓掃除」

 という、いたどりを咥えた修行僧の句もあるのだった。