金印偽造説と高芙蓉の潔白に就いて

京都東山の真葛が原の住人だった俳諧師西村定雅、富土卵や、双林寺の芭蕉堂などについて調べてきたが、真葛が原には「大雅堂」があり、画家の池大雅(1723-1776)が、画家の玉瀾夫人と暮らしていた。 拾遺都名所図会 蕪村は大雅と交流があり、「平…

長庚(蕪村)のうつし絵と松茸

西村定雅が書いた「長庚(蕪村)がうつし絵」のことが、ぼんやりながら分かってきた。 蕪村は天明3年(1783)に亡くなる直前に、宇治田原を訪ねたことを俳文「宇治行」に記していた。 山里で茸狩りをしたものの、皆は先を争って探しに出て、蕪村は遅れ…

猫好きの老鼠堂

今回も猫と一緒に考える。 俳諧師と猫の事。 俳諧の世界も、いきなり江戸から東京に変わったわけではない。正岡子規が始めた俳句刷新の動きは、明治30年(1897)に「ホトトギス」の旗揚げによって本格化していく一方、30年代になっても江戸時代の面…

来山の女人形と定雅の竹婦人

茶人で茶の本を多く残した高原慶三(1893-1975)が、俳諧師西村定雅と大伴大江丸のことを取り上げて書いていた。 高原の茶人としての考えは、利休以来、茶道に侘びが重視され、艶が忘れられている、「艶なればこそ侘がある、侘あらばこそ艶がある」…

西行人形と初辰猫

五代目市川團十郎には猫の逸話はなさそうだったが、五代目が狂歌で名を出した鯛屋貞柳の作品を調べていると、西行の銀猫の逸話を狂歌にしているのを見つけた。 平泉に向かう西行が途上の鎌倉で頼朝から銀作猫を貰ったが、遊んでいた子供にあげてしまった話は…

五代目團十郎と大江丸の行き違い

初代、二代の市川團十郎と猫について調べているうちに、五代目の團十郎を大坂の俳諧師大伴大江丸が訪ね、その様子を紀行(あがたの三月よつき)に残しているのを知った。 大江丸には、歌舞伎を句にしたものがあり、團十郎が出て来るものもある。 七夕の今宵…

猫飯と犬車の話

子供時代は夏休みになると、祖母の大阪の家に泊まりに行った。小学生の姉と2人きりで出かけたこともある。「こだま」は、当時東京―大阪間6時間50分かかったので、心細かった。出発前に、母が心配して列車に乗り込み、見ず知らずの隣席の男性に「この子た…

二代目團十郎の猫

猫好き講談師、猫遊軒伯知(1856-1932)について触れたが、猫の講談では、桃川如燕(ももかわ・じょえん、1832-1898)という先輩の大物講談師がいた。 鍋島藩の化猫など猫をテーマにした「百猫伝」の講談が評判を呼び、明治天皇の御前で口…

猫の目時計の歌があった

猫の目時計について、金井紫雲(1887-1954)が、興味深い古歌を紹介していた(「動物と芸術」昭和7年、芸艸堂)。 六つ円く、五七卵に四つ八つは柿のたねなり、九つは針 というものだ。 六つ=午前6時 猫の目は 円 五つ=午前8時 猫の目は 卵 七…

猫恐怖症の猫怖ぢ大夫

私の姉は、子どもの頃、激しい鳥恐怖症だった。鳥の翼が怖いらしく、小鳥でさえ見ると逃げるのだった。私にはその怖さが理解できなかった。ある休日の朝、親戚の男性が、撃ちとった雉を持って現れた。私は思いついて、それを手にすると、まだ寝て居た姉のと…

猫遊軒と嵐雪・烈女の猫

講談師に猫遊軒伯知(びょうゆうけん・はくち。1856-1932)という人物がいるのを知った。結構知られているらしい。「猫遊軒」などと名乗るのは、猫好きだからだろうと思うがはっきりしない。確かめようと、「小幡小平次」の講談が残っている(大正…

正午牡丹と眠り猫

洋画家の中川一政画伯が、「正午牡丹」という文章を書き、著作の表題にもしているのを知った。 前に、牡丹と猫の取り合わせの画題に触れ、本来は正午に咲きほこる牡丹を表すために、時計代わりに猫の目を添えたのが始まりではないか、という鶴ケ谷真一氏の文…

名無しの猫を追いかけて

二葉亭四迷が溺愛した名無しの猫は、その後手掛かりがないので、一旦探索は終わりにすることにした。 二葉亭が猫を愛する一方で、俳句も盛んにつくっていた発見もあった。猫と俳句、夏目漱石とこの点でも似ていた。 ベンガル湾航海中に客死してから5年後、…

吏登の暑苦しい句

京都の知人らと夜、久しぶりに事務所近くの店で食事した。夏の暑さで知られる京都からやって来た知人は、「東京は暑い。京都より暑い」と、連日の猛暑日が続いている6月末の東京の暑さに唸っていた。 最近、「人はどういふ場合に炎熱を感ずるか」と、江戸時…

ミサゴずしと和蘭陀人ヅーフ

前に、松原さんという鷹匠が、魚を捕る鷹、ミサゴと出くわして、驚いたミサゴが咥えていたクロダイを磯に落としてしまい、松原さんが刺身にしておいしく食べた話を紹介した。 みさごずし、という言葉があるのを最近知った。ミサゴが捕って岩陰などに置いた魚…

ハルビンで連行された愛犬家四迷

知人宅の隣家の飼猫が、前から我が家の猫に似ているのが気になって居た。似ていることを話すと、わざわざ抱いて連れて来てくれた。体は大きいし年齢は大分上ではあるが、やはり目つき、表情がそっくり。なんだか、わが家の猫に睨みつけられているような気持…

四迷の愛犬マル探し

休日に長男家族と多磨墓地、小平霊園へ墓参りにいった。道中、長男に「うちの猫がネコジャスリを気に入っている」と報告すると、あのプラスティック製のやすりは、猫のざらざらした舌を再現したものなので、猫は他の猫になめられているような気分になって気…

四迷に付いてきたノラ犬

日記や書簡を頼りに、二葉亭四迷の猫の情報をさらに得られないか、と思った。 猫でなく、犬が出て来た。 日付のない、伯父の後藤有常宛ての手紙の末に、発句が4つ添えられていて、 「愛犬を失ひて」と題して 「その声のどこやらにして風寒し」 と、失った愛…

「ねこじゃすり」から二葉亭の名無し猫まで

母の日ばかりか、父の日も、長男夫婦が毎年ちょっとしたプレゼントを用意してくれる。ちょっと面はゆい。 今年の母の日は、ガーデニング用の日よけ対策クリーム一式、(早めの)父の日は「ねこじゃすり」だった。 私は「ねこじゃすり」を知らなかった。 プラ…

川端康成とペンギン検印紙

ペンギンのような検印紙が気になったので、新聲閣発行の他の書籍を取り寄せた。 おなじペンギン風の検印紙だった。書籍発行の昭和15年当初から新聲閣の検印紙の図案だと確認できた。 思いがけない発見は、ペンギンのような動物に捺された検印が、記号だっ…

ペンギンのような不思議な検印紙

前に京都の甲鳥書林の特色ある「検印紙」に触れた。 森田草平の猫の絵の印や、堀辰雄の一琴一硯之楽の印が捺された同社の検印紙は、大きさも4.8cm×5.5cm の見事なものだった。 最近になって、4.3cm×6.0cmと、タテがもっと長い検印紙と出…

20年代パリの美術品収集

石井柏亭「巴里日抄」を読んで、1923年当時のパリに沢山の邦人画家がいたのに驚いたが、おおきな要因は円高だったようだ。第一次世界大戦(1914-1918)の終結後、連合国側の日本は好景気で、円相場が高騰した。 当時パリに遊学していた文学者成…

未乾のパリ滞在と石井柏亭「巴里日抄」

船川未乾画伯夫妻のフランス留学の様子を知りたいと思っているが、たどり着けない。 滞仏の時期が重なる画家の石井柏亭の2度目のパリ訪問の日記「巴里日抄」(「滞欧手記」大正14年)を見つけた。 石井の1923年1月から2月の日記には、画家など沢山…

比叡の大蟻伝説とヘロドトスの大蟻

孫娘のおかげで、蟻について気に留めていたことを思い出した。 比叡山と比良山系の2つの滝に、「大蟻伝説」があることだ。不思議な大蟻なのだ。 1) 大津市坂本本町 「蟻が滝」の大蟻伝説 若き日の伝教大師最澄が、日吉大宮の橋殿あたりから比叡山を目指し…

「あれ何?」散策

連休中に、一時預かった3歳の孫娘を連れて、近くの沼まで散歩に出た。孫は、舗道沿いや、舗石の隙間の土に咲いているヒメジオン、アカツメクサ、カタバミを指さして、「あれ何?」とやたら質問して名前を聞きたがる。タンポポは知っているらしく、質問しな…

知恩院三門を舞台にした「織田信長」

大正11年(1922年)京都の洋画家船川未乾は、京都商業会議所で個展を開いた後、4月に夫人と一緒にフランスに渡航した。 京都ではこの年、龍谷大、大谷大、立命館大が大学設立の認可を受け、大学都市へと歩を進め、全国を回っていたフランスのクローデ…

ワニゴチの涙

玄関正面の壁に、母親が生前に書いた「般若心経」を掛けることにした。多くの知人友人が相次いで亡くなり、なんだかこんな気分になった。 玄関の棚には、ワニゴチの陶芸を置いた。どこに置こうか、あるいは掛けようか迷っていたのだが、この魚にはトゲトゲし…

山野草の会で見つけた武蔵鐙

春の山野草の会に、細と連れ立って行ってきた。毎回、面白い名称の草と出会う。 今回は、ムサシアブミの展示が数鉢あった。鐙(あぶみ)の形に似ているので、命名されたらしい。 鐙についておさらいしてみた。 鐙は、日本では、古墳時代に騎馬文化の流入とと…

未乾デザインの検印紙

詩画集を2冊出した洋画家・船川未乾と美学者・園頼三は、8年後の昭和2年(1927)にまた一緒に協力して1冊の本を作り上げる。 「園頼三/怪奇美の誕生」で、船川が装幀を担当し、創元社から刊行されたのだった。 創元社を立ち上げたばかりの矢部良策…

園頼三が見つけた未乾の自画像

大正7年(1918)8月、列強はロシアの革命政府に武力干渉し、日本も米国とともにシベリアへ出兵し、シベリア経由で脱出を図るチェコ軍を救出するために赤軍と戦った。 国内では、シベリア出兵を見越して、投機目当ての米の買占めが発生した。米価が2倍…