川端康成とペンギン検印紙

 ペンギンのような検印紙が気になったので、新聲閣発行の他の書籍を取り寄せた。

 

 

 おなじペンギン風の検印紙だった。書籍発行の昭和15年当初から新聲閣の検印紙の図案だと確認できた。

 



 思いがけない発見は、ペンギンのような動物に捺された検印が、記号だったことだ。

 

 大きな△の中に小さな▽。あるいは△が3つ積み重なったもの。一体何か。

 

 著書は「正月三ケ日」(昭和15年)。著者は川端康成

 

 「正月三ケ日」扉。装幀は芹沢銈介


 5分ほど考えてたどり着いたのは、ひょっとして家紋ではないか。

 

 WEBは便利だ。川端康成の家紋がすぐ分かった。鎌倉時代の執権北条家が用いた「北条鱗紋」だった。

 まさに△を三つ組合わせた「三つ鱗」の一種だった。(川端家のような、白い△からなるものは「陰三つ鱗紋」「陰北條鱗紋」というらしい)

 

 川端康成は、家紋印鑑を検印に用いていたのだった。

 

 ほかでもそうか。本棚に、川端が2年後に甲鳥書林から上梓した「高原」(昭和17年)があるので、取り出して奥付の検印を確かめた。

 

 

 平凡な「川端」印だった。川の字の左のノが跳ね上がっているのが、特徴的ではあるが。

 

 なぜ、北條鱗紋の家紋を川端は択んだのだろう。

 

 彼の美意識が、この稚気あふれるペンギンの腹には、「川端」でなく「△」からなる紋章印が相応しいと、判断させたのではなかろうか。

 

 たかが小さな検印紙ではあるが、デザインの力は、堀辰雄ばかりか、川端康成の遊び心をも擽ったのではないかと思った。