大正時代、京都の気になる挿絵画家

 前に書いたけれど、大正時代の始めに発行された「歴史地理」は、著名な画家であり版画家であった森田恒友が表紙やカットを飾る洒落た学術誌だった。
 
 東京に、ひと足遅れて、京都で発行された似た名前の学術誌「歴史と地理」も、デフォルメしたエジプト壁画を表紙にしたユニークなものだ。
 
 何冊か手元にあるので、パラパラめくって読んで楽しんでいる。
 
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 大正6年(1917)の創刊。編集人は、京都の女学校や中学校(今の高校)で、歴史の先生をしていた粟野秀穂(仙台生まれ)。粟野には「室町時代の研究」(1923)の著作がある。
 
 京都帝大の同窓生だった史学者西田直二郎京大教授ら仲間を集めて、史学地理同攷会を結成。会誌として月刊で発行した。
 こちらも、学術誌としては、珍しく凝ったデザイン。編集主幹となった粟野は、間違いなく東京の「歴史地理」の中心人物・喜田貞吉を意識していたのだろう。
 
 表紙とちがって、カット類は中国風。巻頭のカットは、獅子像。竹林の中で、狛犬のような獅子が相対している。
 
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 尾っぽの生え際や、背中の巻き毛のえがき方は、稚拙に見えるが、模写でなさそう。オリジナルの面白さがあると思う。尾が立っているので、ともに戦意あり。相撲でもとろうというのだろうか。
 
 「教授資料」というカットも
 
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 深山のなかで、犬のような顔をした老文人が琴をかなで、猫のような顔のふっくらした相手と、清談する姿をえがいている。とぼけた味わいがある。
  表紙とは、タッチがちがうが、どちらもユーモアがあり、作者は同一かも。表紙=下図=の左の立っている動物はコブラなのだろうか。
  
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     表紙部分
 
 挿絵の作者は、誰なのだろう。森田恒友のようなプロには思えない。
 京都には、画家でなくとも絵が達者な文人が沢山いる。例えば、同じ大正時代、老舗呉服店の西村吉右衛門らと、「京都史蹟会」を作った小西大東。
 
 歌学を学び、有識故実の学者として、大正、昭和の大礼で大きな役割を果たす一方、京菓子の図案を手がけたり、扇子のデザインをしていたり、京文化の奥深さをかもし出す人物だ。家業の呉服の業界紙の編集、発行も手がけたという。
      
 「歴史と地理」も、小西大東のような、京都ならではの趣味人が挿絵を担当したような気がする。探索する楽しみが出来た。
 
 大東や粟野のことは、京都府立総合資料館のHPが詳しい。