通夜で猫を近づけるな!の訳は

 前に書いたが喜田貞吉という精力的な歴史学者が、論文を書きまくり、発表する場所が足りなくなったので、自ら新規に雑誌を立ち上げた。
 
 大正時代のその「民族と歴史」を10冊ほど手に入れたので、ぱらぱらめくってながめている。
 
イメージ 1 こんな雑誌
 
 
 読者の報告記や、読者と主筆喜田のやりとりが掲載されていて、なかなか面白い。
 大正11年3月号には、読者の「朝鮮晋州・稲垣光晴」さんから、「朝鮮風俗断片二十則」が寄稿されていて、朝鮮の猫のことがでてきた。
 
 20項目のうち、4番目の「四、猫と死人」。
 朝鮮半島で、死人が出たときは決して猫を近づけないという風俗があるというのだ。
 猫が、「死人の寝てゐる屋根、寝具等を飛び越えたり、オンドルの下に入ったりすると、死人が立つといふ」迷信があるのだという。
 
 そのため、家で死人が出ると「オンドルの煙出しに栓をしたり猫をしばったりします」。
 
 猫が悪さをするというより、猫には不思議な力が宿っている、と見られていたのだろう。猫にとってはいい迷惑。意外なことに、稲垣さんは、死人に猫を近づけないのは、「私の故郷辺(相模)と全く同じであります」と書いている。
 
 神奈川県でもまた、大正年間まで通夜、葬式で猫を近づけない風習があったらしい。
 
 しかし、死人が立つ、というのは、どういうことなのか。中国ではあるが、東洋文庫「北京風俗図譜」の「葬礼」の章に、次のようなことが書かれていた。
 
  死体を安置するさい、「変っているのは、(死体に)絆脚糸(パンチャオス)という大麻で脚をゆるく縛る風習があることで、これは死体が起きあがって家族のものを追いまわしたり、悪霊が死体に乗り移って恐ろしい危害を加えないためである」。
 
 中国人は、そもそも死体は起き上がるものと信じていた、ということだ。
 「この綱は来世で生きかえるまで持っていき、幼児の危なげな歩きかたは、この綱がまつわっているためだ」とも。
 
 まとめてみると、
中国式の死体が立たない方法= 死体の脚を糸で縛る 

韓国式の死体が立たない方法= 猫を死体に近づけない。縛るのは猫のほう

 ということになる。
 少し前のことなのに、なんて奇妙な風習が行われていたか、と不思議におもう。
 
 さて、自分の最期に引きつけてかんがえると、どうか。猫には、私の死体に思いっきり飛びついてもらいたい。私は、キョンシーのように立ち上がって、大いに皆を驚かせてみたい。そうおもうのだ。