猫が損した幕末の人気双六

  森銑三の随筆集「砧」を読んでいたら、幕末から明治の初頭の子供たちの、唱え文句について書いてあった。関心をもったのは、文句に、猫や犬が入っていたから。
 ちん、わん、猫にゃあ、ちゅう、金魚に、放し亀・・」と、長い文句をとなえていた、のだという。
 「ちんわん双六」という、大人気の双六が、全国的に流布していた。
  広島大学図書館に所蔵のものは「ちんわんぶし幼すごろく」(webでみられる)。
  いずれも、
  振り出しが 狆(ちん)、
 1 わん(犬) 2 猫にゃあ 3 ちゅう(ネズミ) 4 金魚に 5 放し亀  6 牛もうもう 7 こま犬
続き、35ほど進んで、上がり。
  各コマに、絵と文字が書いてあり、子供たちはこれを愛唱したらしい。読み書きや知識を得る役目も合ったようだ。  
 大阪の子も、江戸、東京の子も、若干の異同はあっても、同じように、「狆、わん、猫にゃあ、ちゅう・・」の出だしだった。
  愛玩犬の狆が 振り出しであり、わん=犬、と分けているのが興味深い。
 「猫」でなく、「猫にゃあ」とかかれているネコは、脇差をさした武士のいでたち。悪そうな、よく言えば威厳のありそうな恐い顔をしているオヤジ猫だ。「ちゅう」のネズミが若侍風なので、猫は完全に印象面で損している。
  幕末から明治初頭、人気双六は、全国の子供たちに、動物のイメージを摺りこんだろうから、猫には、このイメージを植えつけたのだろう。
  明治になって、可愛い猫がなかなか登場しないのは、こうした所為でもあろうか。
  この時代の猫は、手元にある、河鍋暁斎の猫の絵をみても、なんだか、おやじ臭い。
 
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先だって、出光美術館へ「禅の世界・仙厓」を見に出かけたが、18-19世紀の江戸時代の、この禅僧は、ニャロメ風の猫ばかりか、可愛いムクイヌの禅画もかいていた。