二千円札のおつり

 神田の街は、緊急事態宣言で古本店がみな閉まっている。5月一杯、昼の散歩も味気ないものになる。

 

 和菓子の老舗が開いていたので、生和菓子を買いに入った。5月の菓子のうち、あえて今回は柏餅、木の芽田楽は外し、藤、清流、岩根つつじ、落し文、卯の花、深見草を択んだ。

 

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 おつりに、二千円札が混じっていた。ここでは、近所の金融機関に頼んで、手の切れるような二千円札を確保し、おつりに用意してある。二千円札を嫌う客には押し付けないが、私は大歓迎である。

 

 自動販売機などではほとんど使用できないが、珍しいのと、美しい絵柄が気に入っている。表は、首里の守礼の門。裏面に、源氏物語絵巻「鈴虫」の絵図が、紫式部の姿とともにデザインしてある。福沢諭吉(裏・平等院鳳凰)、樋口一葉(裏・燕子花図)、野口英作(裏・富士山と桜)のどれよりも、美しい。

 

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 昨年、神田明神の御防講(おふせぎこう)の講元に就任した店の主人のこだわりでもあるようだ。(防災、消火と江戸時代から、神田明神の警護にあたる役が御防講。神輿庫の鍵を預かる宮鍵講(みやかぎこう)とともに、今でも神田祭を支える重要な存在だ)

 

 店先で御主人に二千円札へのこだわりを聞いたことがある。やはり美しい絵柄だった。近所の企業や大学の茶道サークルの人たちが、店に、茶道用に和菓子を買いに来るのに出くわす。客を思って、おつりにもこだわっているのだった。

 

 わたしは二千円札を他のお店で支払うとき、「ニセ札ではありませんよ」と一声かけることにしている。「あれ、珍しいですね」「どこで手に入れましたか」と反応する店員が多い。2000年に発行され、いまは印刷を停止している札は、結構人気ものなのだ。