夏の終わりの三峯オオカミ

 夏の終わりに秩父の温泉宿に細と泊まり、帰りに三峯神社に参詣してきた。

 お犬さま、山犬さまとして、オオカミを信仰する御眷属信仰の神社なので、狛犬に代わり「大口真神」=オオカミの阿吽2体が境内を守っていた。

 

 いくつかある大口真神の中に、「神田市場講奉納」の1対を見つけた。大正11年6月に奉納されたものだった。

 

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 事務所の近くの神田淡路町の歩道に「神田青果市場発祥の地」の碑が立っていることもあり、神田でも三峰信仰が深かったのかと、興味を持ったのだ。

 同市場は、江戸初期に神田多町、須田町にまたがる土地に幕府御用市場が作られたのか始まりで、維新後も明治大正時代と賑わった。

 その神田市場内に講が作られ、三峯神社に参詣したのだろう。関東では江戸時代から三峯講のほか、大山講、榛名講と山域の寺社への参詣(代参も)が盛んだったとされる。

 

 三峯のご利益というと、

1)農家では猪鹿除けとして

(オオカミがイノシシ、シカを退治するということから)、

2)江戸などの都市部では、火除け、盗賊除けとして

(オオカミが火や不審な音に敏感に察知することから)

 

 神田市場でも火除け、盗難除けとして三峯を信仰して講が作られていて、大正11年に三峯神社にオオカミ像を奉納したのだった。

 しかし翌12年9月関東大震災で市場は焼けて壊滅してしまった。

 復旧は昭和3年。隣町の秋葉原に移転しての開場だった。

 

 火除けの神といえど、大震災はとめられない。赤い前かけをした神田市場講奉納のオオカミを眺めて少し同情した。