神保町散策と白秋の美術

 神田神保町界隈を散策する。コロナ騒動の見舞いがてら、古本店Yに顔を出す。若きご主人は、「もう、土日は正月のようですね」という。近くの高層ビルで働く連中もテレワークで、通勤しなくなったよし。確かに人影はまばら。商売の方は?「ネット販売で凌いでいます」。いささかでも貢献しようと、「多磨」など古雑誌を仕入れる。

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 交差点を渡って、古レコード店にも顔を出す。コルトレーンのコンボに居て、先ごろ亡くなったジャズピアニストM・Tのサインをあげる約束を果たしに行き、猫にも挨拶する。めちゃくちゃ喜んでくれた。40年も前の学生時代、兼松講堂の控室で、ちゃっかり何枚か書いて貰ったのだ。左手でサインしたので、MTが左利きだったのだ、と合点した思い出がある。
 マスク越しのボソボソした会話。御主人によると、近所の焼き肉店が耐え切れず閉じたという。「夜は怖いくらい人がいませんね」。ゴールド&フィッツデールのストラヴィンスキーピアノ曲のLPなど買って、事務所に戻る。

 昼には、ランチ750円という中華料理店に麻婆麺を食べに出た。店を仕切るマスク姿の看板おばあちゃんと話す。「夜はもうだめ。2組ぐらいね。昼は何とか来てくれるけど、これ以上減ったら、もう閉めるね」。東京もやがて8万人が罹患するそうだよ、とおばあちゃんが悲観的に言うので、「子供のころ、BCGを打つ地域は、なぜか被害が少ないデータがあるらしいよ。イタリア、スペイン、アメリカとBCGの習慣がないところがひどい状態」と、少しでも安心する話を選んだが、「私、打ったかなあ」と不安がる。そうか、おばあちゃんは中国人だった。

 事務所に宅配便を届けてくれている顔見知りの女性とエレベータで一緒になる。流通がおかしくなると、全てがアウトだから、くれぐれも頼みますね、とまたボソボソ挨拶する。

 

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 Y書房で手にした「多磨」は、題字ばかりか、表紙の絵の作者が北原白秋だった。赤い絵は、海の上の蝶々の群舞。白秋は、絵を描く詩人だったのだ。知りたいことがまた出てくる。

 

 コロナ終息まであと一年は続くだろう。施政者、大手メディア、世論に惑わされず、個々の智慧を頼りにしたたかに生き抜いてゆくほかない。