ジャズ・アルバムの怖い顔の猫たち

 神保町の猫のいるレコード店の主人からケータイに連絡があった。

「随分前に頼まれていたレコードが見つかったのですが、まだ御入用ですか」と。

「御入用も御入用。取りに行きます」と言って、事務所を抜けだして取りに行った。

 

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  猫のジャケットのジャズアルバム、トミー・フラナガンの「THE CATS」。2匹の猫が尻尾を立てて、右を向いているのだが、どうみても可愛くない。前に書いたレッド・ミッチェルのレコードジャケットのベースの上の子猫とは対照的。獰猛にさえ見える。

 どうして、こんな猫の写真を使ったのだろうと、気になっていたのだ。

 

 アイラ・ギトラー(IRA GITLER、1928-2019)のこのレコードのライナーノートをよんで、やっと納得できた。

「THE CATS」のCATは、「ジャズマン」を指すのだが、ギトラーによると、そもそもは、1900年代初頭のニューオリンズの娼家の女たちを指す言葉だったという。当時娼家では、階下でエンターテイメントが求められ、ニューオリンズジャズが演奏されるようになった。そのうち、CATという言葉が、店の女たちからジャズマンを指すようになったというのだ。

 その時分よりジャズは発展したが、CATSの呼び方だけは残って、今もジャズマンを指すのだ、と著名なこのジャズ批評家は書いている。

 

 1957年録音、1959年発売のこのレコードは、ハードバップの雄6人が集って熱い演奏を聞かせる。ジャケットのCATたちも、可愛くてはいけない、演奏同様、雄々しく、時には猛々しくなくてはならない。なにせコルトレーンが参加しているのだし。ということらしい。

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 そう思ってみると、ジャケットの猫たちも、よく見るとそれなりに可愛くなくもない。

 

 レコード店を出るとき、床に寝そべる看板猫の背中、お腹と撫でまわした。ゴロゴロとのどを鳴らしていた。世に可愛くない猫はない、か。