立石鉄臣画伯が、1940年代台湾で用いられた天狗の版画絵を、「民俗台湾」誌に模して、発表したところまで書いた。
ちょっとかわいらしく見えるが、台湾で天狗は、邪神として人間に悪さをすると考えられた。家庭で不幸が起こると、天狗のせいとされ、タンキー(童乩)とよばれるシャーマンを呼んで祈祷してもらった。その際、タンキーはこの天狗を描いた紙を焼いて、邪を払ったという。
2009年、台湾で日食があったとき、天狗が話題になった。
「天狗食日」、日食は天狗が太陽を食べるために起こる、という俗信が取り上げられたのだ。天狗は月も食べ、「天狗食月」といって月食も天狗のせいとされる。
日が翳ってくると、黒衣の老婆が、本堂から突き出ている露台に長い線香を持って現れ、太陽に向って何度も拝礼した。さらに、付近の民家が空き缶や小太鼓を無闇に叩きだしたという。画伯は、老婆の様子を絵にして「民俗台湾」に掲載した。
古代中国では、日食になると、日を食べる天狗を追い払うために人々は銅鑼を叩いたとされる。銅鑼から石油缶に変っても、同じような習俗が台北にも残っていたことが分かる。
ただし、日食のことを記録した立石画伯は、天狗については触れていない。音を立てる習俗は残っていたものの、当時は2009年の時ほど日食が天狗のせいと考えられてなかったのだろうか。疑問が残る。
台湾の警官から学者になった東方孝義氏が当時「日食と台湾の旧慣」や「日食と月食の習俗と伝説」という 論文を書いているので、調べれば分かるのだろうが、今は手立てがない。
しかしながら、画伯が残した、小さな犬の天狗の版画を見る限り、この犬が太陽を食べたり月を食べたりするような大食漢には見えない。
(続く)