トタン屋根の猫と電柱の猫

 なぜ、土産の埴輪の話になったかというと、猫が書棚の最上段にのぼり、置いてあるものを、前脚で落としているからだ。
 フォトスタンドを落とし、皿、鉱石、箱と落としまくり、とうとう埴輪も落ちてきた。
 かまって欲しいための示威行動で、捕まえて棚の上から床に下ろすと、今度は机に飛び乗り、パソコンのキーボードの上に腹ばいになって邪魔をする。
 
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 さて、事務所の近くの文庫本の古本店で、タイトルにひかれて新潮文庫を買って帰った。「やけたトタン屋根の上の猫」。テネシー・ウィリアムズの戯曲だ。有名だが、読んだことがなかった。原題は「Cat on a hot zinc roof」。「熱いトタン屋根の猫」という訳もある。
 
 米国の典型的な南部地帯ミシシッピ・デルタを舞台に、綿花の大農園主で資産家の白人一家の、遺産相続を巡る打算やらが露骨にぶつかり合うドラマだった。1955年にピューリッツァー賞を受賞。エリザベス・テーラー、ポール・ニューマン主演で映画化されていた。
 
 何で猫なのか、読み進んでゆくと、大農園をもつ「おじいちゃん」の次男坊の妻マーガレットが「猫のマギー」と呼ばれているからだった。同性愛と思しきアル中の夫ブリックとの満たされない夫婦生活にイライラし、精神的に追い詰められる自分の状態を「やけたトタン屋根の上に追いあげられた猫のような気がしているの、しょっちゅう!」といったりする。
 
 激しい内容の戯曲は戯曲として、猫の理解については、いささか違和感があった。猫は、欲求不満にはならない。勝手気ままに、行きたいところに行き、いやなものはいつまでもいやがる。マーガレットように「このまま、やけたトタン屋根で頑張ることにいたします」という猫はいない。トタン屋根の上からなら飛び下りても来よう。
 
 そう考えていたら、思い出した。猫も窮地に陥るケースが確かにある。電柱の上だ。犬などに吠えられ、上るのは得意だが、高所から下りられなくなった最近の3例―。
 
 ▼2016年10月 米カリフォルニア州フレズノ 
オス猫 名前FAT BOY(でぶっちょ坊や) 高さ13.7mの電柱の上から9日間下りられず、救出された。のまず食わずでよく耐えた。
 ▼2017年1月  英グロスタシャー カム  
メス猫 名前BETTY  高さ9.1mの電柱の上で24時間動けず、救出された。
 ▼2018年3月  米アリゾナ州フェニックス
  ノラ猫 FRAIDY CAT(意気地なし) 4日間電柱の上から下りられず救出された。
 
 上記の3例はともに、白黒の猫で、住民の理解を得て電線を不通にして電気会社のスタッフが抱き下ろしている。
 
 結論。電信柱のてっぺんの猫は助けないとならないが、トタン屋根の猫は自分で下りてきなさい。
 屋根の上でがまんしたマーガレットは、ブリックを支えていく決心をして芝居は終わる。