キプリングを愛読したバルトーク

作曲家のベラ・バルトーク(1881-1945)が、家出した知人の猫の声をはるか遠くから識別し、木の上から下りられずにいた猫を発見、救出したこと、猫の鳴声の音程を分析して、子猫にその音程で語りかけると、親猫と間違えてついてきたことなど前に書いた。
 
1940年にナチス色が濃くなった母国ハンガリーから逃げるように、米国移住したバルトークは、ピアノの元教え子の女性を頼ってNY住まいをする。喧騒の町に不平だらけのバルトークは、彼女のバーモントの別荘で、やっとつかの間の安息を得る。猫はその時のエピソードだ。
 
バルトークは、別荘の持ち主で元・女弟子のアガサ・ファセットに、猫語習得を自慢する。
こんな言い方で。「私は沢山の鳥も呼べるのだよ」「もし、ジャングルでキプリングモーグリのようになったとしても、私の(動物)言葉理解の早耳のおかげで、なんとか生きられると思うよ」

モーグリは、狼に育てられた主人公の少年の名前。(ディズニー映画にもなったので、良い子の皆さんは知っていますね) 「ジャングルブック」(1891)「続ジャングルブック」(1892)に登場。モーグリはやがて、ジャングルの指導者となるが・・。

キプリングを読んでいるのを知ったファセットは、バルトークに、猫の話をする。前に書いたキプリングの「THE CAT THAT WALKED BY HIMSELF」の物語だ。
 
《「キプリング?」彼は疑わしげに聞いた。「でも、ジャングルブックのシリーズにはないね」。
「ええ、ジャスト・ソー・ストーリーの話ですわ」
「読んだことがない」と彼はいい、「聞いたこともないし。そんな本があるのは確かかね」。
私は黙ってうなづいた。》
 
バルトークの若い夫人ディッタに頼まれて得意げにファセットは、内容を話す。満足する夫妻。
 
だが、数日後、本棚で本を見つけたバルトークは夜中に読んで、翌日ファセットを呼び止める。内容が違うことを伝えたのだ。

「でも、猫の物語だけどね」
「あなたの解釈はかなり表面的だった。歯切れのいい明快な筋立てがぼけていたし、砂糖を入れすぎていた。キプリングは実際甘くないんだ、どちらかというと、ほろ苦いんだ(BITTERSWEET)。物語を語るとき、どうしても正確さに欠けることがあるんだよ、音楽の曲の演奏解釈のようにね」
「もう一度読み返したほうがいいよ」

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バルトークのきつい言い方は別として、作曲家として、原作に対する読み、解釈には厳しいことが伝わる。
 
そして、キプリングを愛読し、ジャングルブックの児童小説でも、彼ならではの、ほろ苦さがあることを見抜いていた。
 
写真はファセット著の「バルトーク・米国での数年間」。表紙は、バーモントで寛ぐバルトーク