スガルについて新たに判ったこと

 日本書紀に登場し、三諸山の大蛇を捕らえる怪力「蜾蠃(すがる)」について、触れてきた。中国でジガバチを意味する蜾蠃=カラ=の漢字名が、何故すがるに付いたのか、興味を持ったのだ。
 
 すがるという言葉は、宮沢賢治の歌に登場。今もハチの意味の岩手方言で使われていたことが分かった。
 
 最近になって、長野では、スガルという言葉がスガリとして、生活に密着しているのを知った。信州(長野)で、「スガリ追い」という「地蜂とり」が行われているのだった。
 食用イナゴで知られる信州は、ハチノコの名産地でもある。食用になるハチノコの地蜂は、地中に巣を作るクロスズメバチだった。蜂のエサに白い目印をつけた糸をつけ、蜂が巣に運ぶのを人々が遠くまで追いかける。巣が見つかれば煙でいぶして掘り出す。Amazonで調べると、ハチノコを醤油と砂糖で煮た缶詰(65g)があり、1665円と高価だった。
 
 危険なオオスズメバチに比べると、身体ははるかに小さく、攻撃性も少ない。地面に巣を作るという特徴がある。
「スガリ」のほか地域によって「スガル」ともいわれているので、いままで探ってきた「スガル」が信州では、今クロスズメバチをさしているのだった。
 
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  これは、調べ直さないといけないと、思っていた矢先、江戸時代の安永4年(1775)に刊行された方言辞典「物類称呼」(八坂書房、昭和51年)を高円寺の古本屋で見つけた。

「スガル」のことが明記されていた。「蜂」の項 
「はち○仙台にて○すがりと云」
 江戸時代に、仙台でもすがりと言っていたのが記録されていた。
 ジガバチの項もあった。「蠮螉」(エツオウ、中国で蜾蠃同様にジガバチのこと)。
「蠮螉 じかばち○畿内にて○こしぼそと云 仙台にて○土すがりと云 常陸にて○かそりと云 信州にて○ぢすがりと云 東武にて○じがばちと云」
 江戸時代、ジガバチは腰細、土すがりなどと称されていた。常陸のかそりも、細いという意味から来たとしている。「さそりと云う細きことなり 常陸にてかそりといふもさそり也」
 
 こうしてみると、スガルは、古代はジガバチを示し、江戸時代以降=土の中に巣をつくる地蜂(クロススズメバチ)、ないしハチ全般を指すようになった。
 ジガバチは、古代はスガルと呼ばれたが、江戸時代以降はコシボソ(腰細)、カソリ()、土スガリと、別名で特定されるようになった。
 やっと、ここまで分かった。
 
 甲斐の国の俳人、飯田蛇笏に土蜂の句がある。
 
 高原の秋惜しむ火や土蜂焼く
 蜂を焼く崕土にほふ秋風裡
 
 あるいは、クロスズメバチのスガリ追いを描いたものかもしれない。