足長蜂の巣から、日本書紀のスガルを想う

 
 アシナガバチの巣が、我が家に毎年出きる。
 
 イメージ 1
 
 感心するのは、見事な幾何学的なデザインであること、巣を外部にくっつける把手の箇所が、金属のように固く頑丈なこと。繊維でもって、あんなに固くなるのだとしたら新素材に利用できるのではないか、と思うくらいだ。
 
 しかし、僕が興味を持つのは、立派な巣は作らない、ジガバチの方だ。
 夏に巣穴を掘り、青虫などを捕えて入れる。単なる幼虫の餌なのだが、昔の人は、穴の中で、虫は蜂に生まれ変わって、春になって、穴から出てくると考えたという。
 蜂は、ジガジガと音を立てるが、「似我似我」と漢字を当てて、蜂に似ろ、という呪文と聞いた。
 
 ジガバチの由来を、「広辞苑」はこんな風に書いている。
 
 
  日本書紀にも、ジガバチの名が出てくる。蜾蠃(すがる)で、雄略天皇に可愛がられた「怪力・異能」の腹心だ。
 蜾蠃と、書紀には漢字表記されていて、中国語でまぎれもなくジガバチのこと。
 
 蜾蠃は、雷神を捕えるので、そもそも「力士」だったと思われるが、なんで、蜾蠃=すがる=ジガバチという名が付いたのか、不思議だった。
 
 万葉集には、蜾蠃が2箇所に出てきて、いずれも腰細の女性を例えている。ジガバチは奈良時代は細い腰を連想させるものだったらしい。
 ならば、力士に蜾蠃の名とは、どうしてか。腰細は似つかわしくない。
 
 雄略紀を見るとー。
 
天皇は后・妃に桑の葉を摘みとらせて、養蚕を勧めようと思われた。そこで蜾蠃に命ぜられて、国内の蚕(こ)を集めさせられた。スガルは勘違いして、嬰児(わかご)集めて天皇に奉った。天皇は大いに笑われて、嬰児をスガルに賜わって、「お前自身で養いなさい」といわれた」(訳・宇治谷孟
 
 しいて、想像すると、蚕は、ジガバチが捕える餌に似ている。蚕集めをシガバチ=スガルに頼んだのは、蚕に似た青虫を取るのが得意なためだ、ということになる。
 
  書紀の巻14は、中国人の続守言が撰述した、と森博達氏(「日本書紀の謎を解く」=中公新書)は解いているので、続の知識も入っているのであろうか。そうだとすると、続の昆虫の博物知識が豊富だったこととなる。
 実はスガルは「日本霊異記」にも出てきて、もうひとつ、スガルの名の由来を想像させるものがある。(続く)