雷の使いクワガタムシのこと

 待望の立石鉄臣さんの展覧会がはじまった。仕事でバタバタしてまだいっていない。
 
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 夜、集英社の原色昆虫百科図鑑を開いて、立石さんの描いた細密画の昆虫たちをながめる。この昆虫図鑑は、画家のサインがちゃんとはいっている。立石さんは「tetu」のサインで、小林勇さんら他の4人の画家と区別ができる。
 
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 ドイツの作家カロッサの「美しき惑いの年」(手塚富雄訳)を読みかえしていたら、バイエルンのドナウ河畔の森、ロイゼルのクワガタムシがでてきた。
 若き日の作家=主人公は、6月にローゼルの森の松明行列を見にでかける。森で暮らす従兄は、柏の若葉をつめた袋の中に、クワガタムシをとってきた。宿にむかう道々、主人公は、袖に止まらせてよろこぶが、従兄は口ごもりながら「これは、森のもんでわしの持ちものじゃねえんで」と、見せただけであげるわけでないと狼狽しながら話す。
 
 理由はこうだったー。
鍬形虫を家にもちこむのは危険である。おそかれ早かれきっと落雷があるから、というのであった。アマーリェもこの有角動物の放免説に賛同した」
 
 どういうことか。クワガタムシの呼び名は、DONNERPUPPE。
 DONNER は雷神トール。PUPPEは、手先。
 
 鍬形虫は雷神トールの使いとみられていたのだ。だからむやみに鍬形虫を家に持ち込むと、トールの怒りをかう、とゲルマン人の間で古来から言い伝えられたのだという。
 
 従兄も、半ば信じていたのだろう。
 昆虫や動物へ託された各民族の伝承のちがいは面白い。というのも、前に書いたように古来日本では雷神の使いはジガバチ=スガルだった。では、雷神の使いの鍬形虫とスガルに共通点はないのかというと、それがあるのだから、なお面白い。
 
(続く)