誰がミソサザイを殺したか

ヨーロッパコマドリの赤い胸毛が、キリスト伝説とつながったことは、もっと古くからのコマドリ赤毛の象徴性が、キリスト教によって変容した可能性がある、のではないか。
 
ヨーロッパコマドリは、今でも欧州で、ミソサザイと深い関係があり、対で語られることもあるし、あるいは同一のものとされることもある。
 
例えば、ヨーロッパコマドリが夫、ミソサザイが妻
    ヨーロッパコマドリは神の雄鳥、ミソサザイは神の雌鳥
    同一種で、雄がヨーロッパコマドリといわれ、雌がミソサザイ
 
といった具合だ。
 
赤い毛のヨーロッパコマドリ
茶褐色のミソサザイ
はっきり識別できるのに、混同しているのだ。
 
ミソサザイについて調べると、興味深いのは、
キリスト教文化の前のケルトの伝承では、
雷神と深い関係があることだ。
 
1 ミソサザイの卵や雛などを盗むと、親鳥が盗人の家を見つけ出し、稲妻を落とす
2 雷神タラニスは樫の木に棲んでいて、ミソサザイはタラニスに捧げられる
 
以前、赤色と雷神の関係に触れたことがある。
1)赤い頭の欧州のヨーロッパミヤマクワガタは雷神トールの使い。
ドイツ・バイエルン地方では、クワガタを捕まえて家に運ぶと、雷が起きると怖れられた。
2)カミナリと関連が考えられる雷鳥の雄の目の上に赤い肉冠。
3)日本神話、伝説に登場する雷神の使いスガルは、赤い鉢巻をしている。スガルが意味するジガバチも胴体に赤い帯
 
雷神と関係が深い、ミソサザイには、赤を関連付けるものはないが、ミソサザイの夫、或いは同体と勘違いされてきたヨーロッパコマドリには、赤い胸毛が輝いている。これはどういうことか。
 イメージ 1

ミソサザイとヨーロッパコマドリが混同していると考えると、なぞが解けるものがほかにある。
これも以前に触れた「だれがコマドリを殺したのか」という不思議なマザーグースだ。
コックロビンの葬儀が歌になっている。
 
実は、ミソサザイは、ケルト人の文化で犠牲とされる儀礼があった。今も名残があり、キリスト教の殉教者聖ステファノデーの、12月26日にも受け継がれ、今でもミソサザイ狩り(WREN HUNT)の祭が英国で広く行われている。
ケルトの信仰では、王殺しによって、新しい王が力を受け継ぐ、という儀礼に、神性を持ったミソサザイが用いられたということらしい。
 
「私が、弓と矢で殺した」とスズメが言った、コマドリ殺害のなぞも別の解釈ができるかもしれない。
コマドリ殺害は、実はミソサザイ殺しで、古い王殺しと、新王の王権継承の儀礼の話であるとー。