ダルハンのハヤブサは悪いってか

 CiNiiの論文検索で楽しんでいる。

  沖田道成さんの「元朝期鷹狩り史料一考」(アジア文化学科年報 1, 1998-11 )を見つけた。
  元朝の法典「元典章」の「巻38、兵部5」からの引用に、想像が膨らんだ。
  元朝フビライやテムルがハヤブサ、タカを献上させた史料だ。
  その中身はー。
 
  月的迷失という人物が、至元31年(1294年)623日に成宗テムルに、
「先帝(フビライ)は、捕獲した鴉鶻(ハヤブサ)、黄鷹(1年目のオオタカ)、角鷹(クマタカ)、双鹞(ハイタカ=雌・コノリ=雄)の良いのは人を派遣してつれて来い。悪いものは、全て逃がしてしまえ、といわれました」と奏上したところ、「先帝の言葉に従え」といわれた。
 
  また、新帝は同年718日「答剌罕がよこしてくる鴉鶻(ハヤブサ)は悪いものである。月的迷失に『お前なら間違いない。鴉鶻(ハヤブサ)をよこしてこい。ちゃんとした人間を派遣して鴉鶻(ハヤブサ)をつれてくるのだぞ』と伝えろ」と昔宝赤の木發剌に命じた。 
  
  --- 以上
 
 鴉鶻(ハヤブサ)、黄鷹(1年目のオオタカ)、角鷹(クマタカ)、双鹞の(ハイタカ、コノリ)の( )の中は、私の解釈。
 「昔宝赤」は、シバウチと沖田さんは表記している。ショボーチだろう。モンゴル語で、ショボーは鳥のこと。チやチンをつけると人になる。ドーは歌で、ドーチは歌手。
  ショボーチは、鳥を扱う人、あるいは鳥を扱う官職。「鳥官」といったところ。
 
  チムルが、鳥官の木發剌(mufala)に、答剌罕(dalahan)が届けるハヤブサが気に入らず、月的迷失(yuedimishi)に期待している、と伝えたことになる。
 
 答剌罕はダルハン、モンゴル名によくある。月的迷失は、ユェディミシュとでも発音するのか。モンゴル語で解釈しづらい。
  トルコ姓によくある、YILMAZが近いのではないか。
 
  モンゴル人のダルハンが皇帝に届けるハヤブサが気に入らず、色目人らしき月的迷失に期待している、ということになる。
  鷹を捕獲した後、役人たちが、皇帝に届けずに私するのが横行していたのが背景にあるらしい。「鳥官」のムファラは、よく分からない。バーレーンに「ムハラ」という地名がある。
  鷹狩りを至上の愉しみとした皇帝たちが、鷹収集のために、モンゴル系、トルコ系、あるいはアラブ系の鷹匠を総動員していたのだろう。
 
 ダルハンの内モンゴル、あるいはモンゴル高原ハヤブサ調達ルートばかりでなく、月的迷失の仕切る調達スタッフの、西域のハヤブサに期待をかけていたのではないか。想像が膨らんでゆく。