昭和16年の「晩夏」が届いた。
ドキドキしながら、奥付を開く。
あった、堀辰雄夫妻が半日かけて捺した「一琴一硯之楽」の印。
縦6㌢横5㌢の大きな検印紙に、縦長2㌢×1.3㌢ほどの印が捺されている。
「一つ一つ丁寧に『琴』だとか『硯』だとかいふ文字なんかに気を配りながら、捺したりした」
と堀は書いているが、少し琴の字がかすれ、硯の字の左上が印肉で潰れているのは、捺し続けて、疲れてきたせいだろうか。あるいは夫人が捺したものか、想像を巡らせてみる。
驚いたのは、横長本だったことだ。18㌢×13㌢ほど。箱は縦長で上部から本を出し入れする体裁になっていた。
2色刷りで、「晩夏」、「目次」、小さな三つ葉の絵だけが、茶色に染まっている。すべて明朝体。
ああ、仕事で忙しい一日だったけど、疲れがとびさってしまう位、嬉しくなった。
しかも、古本店から取り寄せた本は、ランチの冷し中華くらいの価格だった。