猫の検印に出くわしたのが始まりだった。
甲鳥書林の検印紙が気にかかり、少しずつ調べてみると、また気にかかることが出てくる、といった具合だ。
甲鳥書林の検印紙は、それぞれ、大きさやデザイン細部が違って居る。
大きな堀辰雄の検印紙は、5.5㌢×4.8㌢。森田草平もほぼ同じ。
中山義秀の「柘植の日記」は、半分以下の2.5㌢×2.2㌢だった。
中山義秀の「義秀」印は、堀や森田草平のサイズなら映えるのだが、小さな検印紙なので、印がはみ出てしまっている。他の著書を見て、中山は気負って印を用意していたが、出版社から届いた検印紙があまりにも小さかった-とあらぬ想像をしてしまう。
戦後になって、出版物の発行部数も急増し、著者検印の制度自体がなくなってしまったが、私は戦前の作家たちが部数確認のため、単純作業に精出した捺印は、著者の趣味、信条など様々なことが伺えて面白いと思っている。