その犬は前回推定したテリアではなかった。
馬、鹿なども描いたが、とくに24年のスコットランド旅行で知ったニューファンドランド犬を愛して、数多く描いている。海辺で働く白黒の逞しい労働犬。
人命救助で活躍した犬を好んで描き、1820年にアルプス山中で倒れた男性を激励するアルプス・マスチフ犬の作品を手がけた。一頭が吠えて助けを呼び、もう一頭は男の手を舐めて温めようとする姿を描いている。
この間、1829年にワーズワースが感動した1805年の湖水地方のエピソードを絵にしていたのだった。24年も時が経っていたが、1828年スコットランドの詩人ウォルター・スコットの小説の挿絵を担当した際、この忠犬のことを教えられたのだろう。スコットは、ワーズワースに先駆けてこの犬を詩に描いていた。
スコットは、犬種はテリアと詩に記していたが、ランドシーアの絵に描かれた犬は、テリアではなかった。「ATTACHMENT」と題され(「愛着」とでも訳そうか)、茶色の中型犬が倒れた男性の身体にしがみついて見守っている。
犬は、スパニエル種に見える。
詩人のスコットはテリアと書いたが、24年後ランドシーアは、スパニエルのように描いたのだ。
出来事直後に作品化したスコットの方を、信じていいと思うのだが、動物に詳しい画家の絵なのが気にかかる。