描かれていたワーズワースの犬

 英国ヴィクトリア朝を代表する動物画家がいて、湖水地方ヘルヴェリンの忠犬の絵を描いているのを知った。
 その犬は意外にも、前回推定したテリアではなかった。
 
 画家はエドウィン・ランドシーア(1802-1873)というロンドン生まれで、トラファルガー広場のライオン像(1858)作者として知られている。
 馬、鹿なども描いたが、とくに24年のスコットランド旅行で知ったニューファンドランド犬を愛して、数多く描いている。海辺で働く白黒の逞しい労働犬。
 
 人命救助で活躍した犬を好んで描き、1820年に、アルプス山中で倒れた男性を激励するアルプス・マスチフ犬の作品を手がけた。一頭が吠えて助けを呼び、もう一頭は男の手を舐めて温めようとする姿を描いている。
 1856年には、米国マサチューセッツ州エッグ・ロック島の灯台守の飼い犬が溺れた子供を助けた前年の実話を作品に残した。犬種は、ニューファンドランド犬とセントバーナードのミックスだった。
 
 この間、1829年に、ワーズワースが感動した1805年の湖水地方のエピソードを絵にしていたのだった。24年も時が経っていたが、1828年、スコットランドの詩人ウォルター・スコットの小説の挿絵を担当した際、この忠犬のことを教えられたのだろう。スコットは、ワーズワースに先駆けてこの犬を詩に描いていたから。
 
 
 スコットは、犬種はテリアと詩に記していたが、ランドシーアの絵に描かれた犬は、テリアではなかった。「ATTACHMENT」と題され(「愛着」とでも訳そうか)、茶色の中型犬が倒れた男性の身体にしがみついて見守っている。
 犬は、スパニエル種に見える。
 
 詩人のスコットは、テリアと書いたが
24年後、ランドシーアは、スパニエルのように描いた、ようなのだ。
 出来事直後に作品化したスコットの方を、信じていいと思うのだが、動物に詳しい画家の絵なのが気にかかる。