垢石の本で遅まきながら茂田井武を知る

 たぬきと鬼と河童が酒を飲んで寝ている。
 片肘をつき狸、河童はウトウトしているが、鬼はうつ伏せて、はや爆睡。
 
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 釣り随筆の先駆的存在、佐藤垢石の『狸の入院』の表紙絵の一部だ。 面白い絵だな、と思う。本は、昭和27年発行。戦前、戦後のまだ、日本の森や川が豊かだったころの釣り紀行が収録されている。
 仙人や河童が出てきて、なんだ法螺話か、と思うと、案外ホントの話だったり。とぼけた味わいの文筆家にふさわしい、この本の装訂者は、童画で知られる、茂田井武(もたい・たけし)(1908-1956)だった。
 1930年、22歳でシベリア鉄道でパリにわたり、皿洗いなどバイトしながら、欧州をスケッチして1933年に帰国した。日本橋生まれの絵描きさん。戦後は、挿絵、童画で活躍し、西洋で見聞きした体験を、子供雑誌で紹介した。没後半世紀が経っても、イラストの入りのグッズが売られ、WEBで、茂田井さんを紹介するページがいくつもある。
  
 垢石本で、存在を知ったようでは、遅すぎたようだ。動物好きなのは、絵ですぐわかる。
 20代の欧州体験でも、猫や犬にも関心を寄せていた。上記のWEBで伺える。ベルギーの魚屋では、猫が店番をして、客が来ると主人を呼びにゆくのを描き、(猫は、店の売り物に手を出さないのか)ロンドンの水夫が犬や鳥を船につれてゆき、陸に揚がっても、船員クラブでいっしょに過ごすのを見逃さなかった。
 若き日の画家は、バイトに追われながら、視線を市井に向け、ペットの暮らしぶりも捉えたのだろう。 
 遅まきながら、好きな画家をまた一人見つけて、なんだか嬉しい。
 
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『狸の入院』裏表紙の一部。池には雷魚
 
 佐藤垢石(さとう・こうせき)1888-1956
 茂田井武(もたい・たけし) 1908-1956
 年は20歳も違うけれど、同じ年に逝去したのだ。
 1956年は、冬季五輪で猪谷千春が初の銀メダルを獲得。桑田佳祐らが生まれた年か。