緑のスーツを着た小象のババール

 

 象のノート(5)
 
ぞうのババール」という子ども向けの絵本がある。僕はフランスの作曲家プーランクの曲「小象ババールの物語」(45年)から、この絵本にたどり着いた。
  1931年フランスの絵本作家ジャン・ド・ブリュノフが、象のキャラクターの絵本を出版。話題を呼び、2年後には英米でも出版された。40歳前になくなった後は、息子が父のあとを継ぎ、続編の絵本を描き、今も人気を保っている。

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 主役は、母親をハンターに殺された子どもの象。長い道のりを歩いて、都会に出てくる。出会った老マダムの援助で学校に通い、服もあつらえ、レストランでの食事のマナーも覚え、自動車も運転するようになる。
 ババールは、やがて故郷を思い出して帰国すると、評議会はフランスの教養、作法を身に付けたババールを国王に推戴。新しい村づくりをする。

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 子どもたちの眼をひいたのは、大きな象が緑のスーツを着て都会生活するという発想だったのではないか。赤いパンツをはいて、老マダムと体操をし、手の代わりに鼻を使って食事、入浴もバスタブに横たわりながら鼻で身体に水をかける姿は、子どもたちに象を身近に感じさせたことだろう。
 
 19世紀末、「ジャングル・ブック」など、動物たちが登場するキップリングの児童小説が欧州の子供たちを魅了した。象もまた、キップリングに登場するおなじみさんだが、その30年後野生の象が、都会に登場する絵本が生まれたのである。しかも、緑色のスーツ姿で。
 
 古く、動物が服を着て登場する例は、「不思議な国のアリス」(1865年)の白ウサギが思い浮かぶ。同じ頃、幕末の日本でも、「ちんわん双六」が子どもたちに人気になり、猫とネズミが武士の格好をして描かれる。
   それが1930年の前後に、一斉に服を着た動物たちが登場する。米国では1928年に洋服を着たミッキーマウスが登場。ドナルド・ダック、グーフィーと仲間のネズミ、アヒル、犬も洋服を着て出てくる。
 米国で1930年に公開された「ベティー・ブープ」のベティちゃんもはじめは洋服を着た雌犬だった。相棒の犬のビンボーも。
 1931年の『ババール』も同じ時代の流れでフランスに登場したのだろう。スーツなど着られないほど大きな象が、紳士に変わるのが新機軸だった。
 
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 新しい波はどうして起きたのだろう。ひょっとして、と思わせるのが、「ぞうのババール」の中にも出てくる。老マダムが、洋服を着せた子犬をつれて散歩している絵だ。欧州では、犬に洋服を着せることが20世紀前後に始まったそうだ。1900年に撮影された犬の写真が残っているという。
  1930年前後に、漫画、アニメ、童画の服を着た動物たちが登場したのは、ペットに服を着せる流行が定着しだしたことと、関連があるかもしれない。