象のノート(2)
明代、北京の紫禁城正面に象が並ぶ銅版画があって、初めて見たときから気になっている。
メンデス・ピントー「アジア放浪記」(江上波夫訳、昭和30年、河出書房)の挿絵で、午門に向かって賓客が進み、左側に、乗って来たと思しき象車の列が描かれる。
象が引く車が一台、象の背中に屋台を拵えたのが4台。
ピントーは16世紀のポルトガル人冒険家。彼の放浪記は死後の1614年に発行されたので、スルターンと思われる帽子を被っている客たちは、オスマン朝、ティムール朝、ムガル帝国などのイスラム系の国の使節だろう。
象の前には、両手にバチを持って、楽器を叩いている4人の楽師。使節を歓迎しているのだろうか。楽器は、中国楽器「花盆鼓」のように見えるが、形が少し違い、あるべき皮の膜は描かれていないのが気になる。
使節側の楽隊とすると、楽器はアラブ、トルコなど中近東の楽器ダラブッカの一種かもしれない。
象は帽子を被っている。使者を乗せてはるばるとやってきたのだろうか。おそらく、紫禁城で用意された象なのだろう。北京には象車を希望する使者のため、多数の象が飼育されていたことになる。