象のノート (1)
将棋に「酔象」という駒があった。この駒が前々から、気になっている。酔象といっても、酔った象でなく、興奮したオスの象と解釈されている。
例えば、19×19のマスで50種96枚の駒が争う「摩訶大大将棋」では、王将の前に位置している。獅子、狛犬、鳳凰、麒麟、竜王、竜馬、猫刃(みょうじん)など架空のものを含め21種の動物がいる中で、酔象が一番重要な場所にいるのだ。
真後ろを除き、全方向に1マス動くことが出来る。
しかも、酔象の成駒は「王子」(小将棋では「太子」)で、王将が取られても、この王子が残っていれば、まだ戦い続けることが出来るルールだという。
「酔象」は、王の前で、象に乗って王を守る太子のイメージだ。
日本に伝わった将棋は、象の地位が大変高かったことが分かる。
酔象は、インド、ペルシャ、東南アジアなどで用いられた「戦象」が元になっているのだろう。戦いの最強兵器として、インド象は敵の兵士を蹴散らし恐れられた。ただ、火矢に弱いことなどが敵方に知られて負けはじめ、モンゴルの騎馬軍団に大敗する。
戦象の伝統があった地域の将棋が、日本の将棋のルーツであることが想像できる。
室町から戦国時代に、「小将棋」から「酔象」が取り払われ、動物名は「桂馬」「馬(龍馬)」「龍王」の3駒だけになって、現在の将棋の原型ができたとされる。
象が残っていたら、今の将棋はどうなっていたのか。なかなか想像しにくい。