象のノート(6)
毎週会う英国のスチュワートさんは、小さなダイヤル錠を持っている。昨夜別れる時に、「よく見えないので、数字をあわせてくれませんか」とダイヤル錠を渡された。
000とゼロが縦に3つ並んでいた。
数字を合わせたつもりで、真鍮のツルを引っ張ったが、あかないので頼んできたのだ。
「000?」
「最後は7です」という。
あわせるとすぐ開いた。
「しかし007、ダブルオーセブンじゃないですか」と少しあきれると、
「すぐ、バレテしまう番号ですね」と笑った。
南京錠は英語で「PADLOCK」。
家に戻って、ふと、象の小さなパドロックがあったはずだと思い出した。もともとは、神社の境内で開かれた骨董市で鹿のパドロックを買ったのがきっかけだった。真鍮の鹿の形の錠は、手にするとズシリと重い。
「インドの南京錠。旅館の部屋の錠に使われてたもの」とぶっきらぼうに言われたのを思い出す。
先がT字になっている鉄の棒を、鹿の胸の辺りの長方形の穴に突っ込んで押すと、ツルがあく。
簡単な仕掛けだった。
その後、近くのアジア・アフリカの民芸ショップで、象のPADLOCKを見つけたのだった。
使い道がなくて困っていた。007のダイヤル南京錠の代わりに、象の南京錠を使ってもらえるかどうか。
ちょっと磨いてから、迷惑を承知でプレゼントしよう。