ロンドンのハイドパークで、7月3日にBSTフェスが開幕、74才になったキャロル・キングが登場して、71年発表の「TAPESTRY(つづれおり)」の収録曲を歌って、6万5000人の観客を沸かせた、とBBCのWEBが伝えていた。
BSTはブリテッシュ・サマー・タイムのことだから、夏時間の開始を告げる野外音楽祭なのだろう。
ピアノの弾き語りで初日を飾り(最終日10日はスティービー・ワンダー)、スクリーンに写された昔の彼女に歌声を重ねたり、長女(もう50代半ば)と一緒に歌う演出もあったらしい。
僕も、このごろ、このLPを取り出して聴くことが多いので興味を持った。
「ユーガッタフレンド」だの「イツツーレイト」とか「ファーラウエー」とか、懐かしくて自然とハモったりしているのだ。さて、キャロル・キングの飼猫のこと。
ジャケット写真に写った、黒の縞猫は、世界的ヒットになったおかげで、少し有名になった。彼女が飼っていたオス猫で、A&Mレーベルの専属カメラマンのJim McCracyが、彼女から、おとなしい猫です、と聞いて、窓辺に移して裸足の彼女と一緒に撮影したという。
当時のLPジャケットでは、自宅でくつろぐ彼女の裸足とともに、猫は新鮮だった。猫は3ショット目で逃げ去ったので、危なく取り損ねる所だった、とカメラマンの訃報記事に書かれていた。
さて、この猫の名は、「TELEMACHUS」=テーレマコス、だったと、後年キャロル・キングはインタビューで明かしている。テーレマコスというのは、ギリシャ神話に出て来るオデッセイとペネロペの子供ではないか。オデッセイがトロイ戦争で20年も留守の間、言い寄る男たちに対して、妻のペネロペは、
「今織っている壁掛け(タペストリ)が仕上がるときに新しい夫を迎えます」と言い訳をして、息子のテーレマコスとともに夫の帰還を待ったのだった。
そのせいか、「ペネロペの機織り」は、妻の貞節の象徴なのだという、欧米では。
タペストリ=つづれおりを編んでいるキャロル・キングの足元で、飼猫=テーレマコスが写っているLPの意味は、自分を、オデッセイを待ち続けるペネロペとして描いたもの、ということになる。長年聞いてきたこのLPは、一途に好きな男性を思い、待ち続けるという彼女の生き方が示されていたのだ、と今頃になって気づいたのだ。