新しい仕事場は、神保町の近くなので、猫のいる古レコード店にも行く機会が増えそうだ。早速、仕事を終えて、顔を出すと、玄関で猫と出くわした。
ミャーと怒ったような声をあげて、三毛猫は、ジャンプしてレコード棚の上に登り、「猫ちゃんや~」と声を掛ける客(私だ)を無視し、そそくさと玄関から外に出て行ってしまった。
2枚レコードを買って、精算する際、主人に「猫出てっちゃいましたけど」と質問すると、「夜になると元気になるんです。昼はずっと眠っているんですが、やはり夜行性ですねえ。いつも外に遊びに行くんです」という。
神保町の裏道とはいえ、車も人も多い大通りはすぐだ。
「ちゃんと帰って来るんですか」
「明方には、ちゃんと戻ります」
夜、神保町でメスの三毛猫を見つけたら、古レコード店の飼猫である、というわけか。
レコード選びも、無意識に猫の影響をうけたようだ。フリッツ・ライナー指揮のシカゴ・シンフォニー・オーケストラのLPをみつけて買った。米国で活躍したハンガリー生まれのライナー(1888-1963)は、ナチスの脅威から米国に亡命したハンガリーの作曲家ベーラ・バルトーク(1881-1945)を助け、彼の曲を演奏して、米国でバルトークの紹介にあたった。
肩痛に悩まされながらの指揮は、今の指揮者と違って随分と地味なものだ。しかし、正確なテンポを守り、音楽に酔わず、情に流されないクールな演奏が、私は好きだ。
(続きあり)