超高層ビルと墓石 補

 火野葦平の「高層ビルが墓石に見える」の発言が気になったのは、若いころ同じような話を、俳優の三国連太郎氏から聞いたことがあるからだ。

 

 屋外でのことだったか。70年代の後半、西新宿の高層ビル群が新しいスポットとして注目を浴びていた頃だ。今では、都庁が有楽町から西新宿に移転して新都心といわれるようになったが、淀橋貯水場のほかなにもなかったのだ。

 

 遥かに見えるビル群を見て、突然「僕にはあれが墓石に見えるんですがねえ。あんな沢山墓石や卒塔婆を建ててどうするんでしょうか」と言い出したのだった。20代の私には答えようがなかった。

 

 ずっとそのことが気になっていた。その際、終戦直後の広島で見た光景についても話したのだった。岡の上からと言っていたか。「建物がなにもない。ああ、広島という町は太田川の中洲にあったのだ、とその光景を見て初めて気づきました」。私は、どう受け止めていいのか分からなかった。

 

 大切な町が全部なくなってしまう。烏有に帰す。それを若いころに目の当たりにした者にとっては、にょきにょきと建てられ始めた超高層ビル群に対して、こういう反応が自然に出てしまったのか、と今になって想像するのだった。

 

 終戦の8月に、私は、こんなことを思い出し、ニューヨークと墓の絵に反応したのだった。