犬の星に乗って

 見上げれば、冬の夜空に青白く光るシリウス
 余すところ今年も10日となってしまった。
 
 詩人の笹沢美明が12月のあとは13月が来るのだと思えばいい、という詩を書いていたと記憶する。でも、それは無理だ。
 
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 オリオン座の近く、全1等星のなかで最も明るい星なのですぐ分かるシリウスは、オオイヌ座の主星のせいか、「DOG STAR」と呼ばれているのだと、最近になって知った。
『イヌの星』。なかなかよい名ではないか。
 
 そんな折、シリウスの勇ましい歌を発見した。
 英国作曲家パーセル(1659-1695)の「私はシリウスに乗って空を渡ろう」(1688年発表)。
  I’ll sail upon the dogstar
 
    シリウスに乗って空に乗り出し、朝に追いつき、正午まで月を追いかけよう、
  雪山に登って天気を決め、虹を空から引き裂き両端を結わえ付けよう、
  星も軌道から外して袋に詰め込もう。
 
 犬に乗って天を駆け、虹をはがして結わえ付け、星をはがして袋詰めにする-こんな発想は、パーセルの生きたバロックの時代ならではだろう。
 作詞はトマス・ダーフィー(1653-1723)という劇作家で詩人(詳しくは知らない)。劇付随音楽「愚か者の出世」(A Fool’s Preferment)の中の、短い英語の歌曲だが、結構今でも歌われている。
 
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  シリウスの犬については、オリオンの猟犬説など、各種の説があるのだという。
 なかで、この荒くれ者を乗せて天空を走るイメージに近いのは、ギリシャ神話のライラプス(λαιλαψ)だろう。
 
 クレタ島ミノス王の愛犬で、どんな獲物も逃がさないという才能に恵まれた犬だ。王の宝物だった。
 やがて、誰からも逃げる才能を持った狐を追いかけまわす運命となり、犬狐双方とも「矛盾」の迷路に入ってしまう。それでゼウスはともに石に変えてしまった。
 
 全天の星を記録した星図帖「天球図譜」で知られるジョン・フラムスチード(1646‐1719)は、ちょうどこの時代に、グリニッジ天文台に勤めていたので、パーセルシリウスの歌も知っていただろう。
 
 そこで、「天球図譜」を開いてオオイヌ座を見てみると、ごらんのようになんとも、おとなしそうな犬が描かれている。賢そうではあるが、スポーティーでない。
 
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 イメージが違うなと思ったら、「天球図譜」はフラムスチードの友人が受け継ぎ、1729年に発行されたものだった。絵は、画家ゾーンヒルのペンによるものだという。この人も知らない。
 パーセルの生きた、豪壮なバロックの時代は終わって、図譜が発行された時は、華麗なロココの時代に移っていたのだった。