楸邨句集の捨て子猫

 うちの猫は、捨猫だった。
 動物病院が預かって、飼主を募集したのを、長男の知人Aさんが引き取った。その後、猫は飼主を転々。 
 また、Aさんのもとに戻ってきたとき、長男が気に入って連れて来た。初対面なのに、膝の上で眠りこけたのが、かわいかったらしい。
 「一週間、ためしに飼ってみたい」と長男はいい、結局住みついてしまった。
 
 猫を飼うのは久しぶりだった。高校生の時、猫が庭に入ってきて帰ろうとしなかった。すりきれかかった首輪をつけていたので、野良猫ではないようだった。
 食べものを与えて、一日様子をみた。父親は「どこかの家の飼猫だろうから、このまま飼うわけにはいかない」と言った。
 
 ちょっと、「はなれた所に放してくる」といって、猫を連れて行った。
 猫は帰ってこない。
 あきらめていたところ、三日目の朝、にゃあにゃあと庭で声がした。父親は「猫がうちを選んだようだ」といって、足を洗って家にあげた。
 
 雑種のとら猫だった。
 
 猫を飼うのに、積極的な思いがあるわけでない。猫との縁なのだ、と思う。
 
イメージ 1 加藤楸邨句集「猫」の扉 見事な猫の絵
 
 
 加藤楸邨句集「猫」ふらんす堂、1990年)には、楸邨の120の猫の句が収録されている。
  
   捨て子猫少女去りもうあてもなし  
  
 子どもらは、飼いたいな、と子猫をかまっていたのだろう。
 日暮れて、最後まで可愛がっていた少女も、家に去ってしまい、子猫は独り取り残されてしまった。
 捨てられたうえ、縁を結べなかった猫は、やはり、かなしい。
 
 楸邨は、芭蕉の「奥の細道」をたどって、北陸の黒部川扇状地「黒部四十八ケ瀬」を歩いた時、捨て子猫二匹をみつけた。
 小さな川が幾つも流れる四十八ケ瀬で、ゴミにしがみつくようにしていたのだろう。
 前書きに、「流れの中の芥に子猫二匹」とある。
 季節は秋。子猫を抱き上げた楸邨は、黒部市まで連れて歩いた。「黒部市まで抱き歩き、情ありげな人の庭に置きて帰る」と書いている。
 
 残した五句から、子猫を託したのは、秋草が美しい、ツユクサ春の七草ハハコグサが植えてある、バッタがとぶ庭だったことが判る。
 五句のうちのひとつが、
 
  秋草にお頼み申す猫ふたつ
  
 金沢まで開通した北陸新幹線からみえる、黒部川の辺りは今どんな景色か。捨猫の子孫も景色の中で育っているのだろうか。