チベット仏教のチャムよりも古いとされる民間芸能で、主人公はポ王とモ后という。
彼らこそ、伎楽の呉公と呉女のルーツだと、ひらめいたいきさつが「マスクロード」(2002年、NHK出版)にかかれている。

ポレモレという演目の仮面劇はー。
ポ王が戦争にでかけ、モ后が留守番をすることになる。あろうことか、王の召使の老婆は、自分の夫をそそのかして妃に懸想させて、姦通させてしまう。
戦争から帰った王は事実を知り、妃の鼻をきりとってしまうが、最後はインドから来た婆羅門が、治療して妃の鼻をつけて元通りー。メデタシ、メデタシのストーリーという。
日本で伎楽面を調査してきた万之丞さんは、呉女の面にだけ鼻がかけたもの、修理したものが多いことが気になっていたことから、謎が解けたとしている。

つまり、伎楽の呉女のルーツはモ后だと。そして、伎楽でも、呉女の鼻をきったり、たたいたり、つぶしたりした場面があったのではなかったかと推察した。
確かに、伎楽の史料「教訓抄」によると、崑崙が呉女に懸想して襲うのを、金剛と力士が止めて成敗する内容がある。劇の雰囲気は似ている。
ただし、「教訓抄」をみるかぎり、呉公と呉女の登場場面は別々。鼻をきる場面があったといいきることは難しい。さらに、正倉院の伎楽面で鼻が欠損しているのは、呉女というより、酔胡従面。確認できたもので最低5面の鼻が欠けていた。
ベーチャムから伎楽へ、魅力的な仮説を唱えた万之丞さんの後を継いで、調べる人が出てくるといいのだが。
