3Dで再現した古代の三角縁神獣鏡の鏡面に日光を当てて壁に反射させると、鏡の裏の神獣の文様が壁に映し出される。古代にも存在した「魔鏡」-。
鏡の厚さを極端に薄くして作る「魔鏡」の仕掛けは世界中にあり、日本では江戸時代に盛んだった。今回判明した古代の「魔鏡」は、三角縁神獣鏡の中で鏡面が極端に薄いものだという。
中国から、三角縁神獣鏡は出土していないが、「三角縁」の車馬神仙画像鏡=写真上=など、紹興附近から「三角縁」の銅鏡は多数出土している。(王士倫「浙江出土銅鏡」)これらも3D化して検証して見れば、長い論争の終止符がうたれるかもしれない。
例えば、島根県の古墳出土の「金糸」。調査結果、金糸は金の薄いリボンを螺旋状に撚った中空のパイプ構造だった。「私が注目したのは、たった一五ミクロンの厚さの金の薄い板を幅三〇〇ミクロンのリボンにし、それを太さ一五〇ミクロンのパイプ状に撚る技術である」と書いている。
古墳時代の金属加工の技術力の高さは、われわれの想像を超えていた。「魔鏡」も当時の技術力に支えられ、「偶然」でなく「意図」して作られたものなのだと思った。
また、雅楽の楽器、笙のリードに用いられたり、金属鋺に使われる佐波理=サハリという青銅は、銅80%、スズ20%の合金であることが判ったという。銅8、スズ2の割合の青銅を、他の青銅と区別して、サハリと呼んでいたわけで、青銅合金の知識のレベルも高かったようだ。
私がもっとも関心を持ったのは、7世紀末から8世紀初頭の青銅のうち、和銅開珎の初期のもの、富本銭、小型仿製鏡のみが、アンチモンを含む異質の合金だったという発見だった。スズの代わりに毒性のまさるアンチモンを銅に混ぜる例は限られる。