若いころに興味を持ったものも、年を取ってくるとどうでもよくなって忘れてしまうものなのだと、実際に年を取って初めて気が付く。若いころに盛んに読んだ愛読書もそうだ。
しかしふとしたことで思い出すことがある。正月で思い出すのが、澁澤龍彦のことだ。
「ちょろぎ」のせいだ。
正月のお節のひとつ、「ちょろぎ」への偏愛を澁澤龍彦が書いていて、うちの正月にも「ちょろぎ」を出してほしいと母親に頼んで、付け加えてもらったのだった。家庭を持ってからは細に頼んで、正月には「ちょろぎ」を欠かさないようにしてもらっている。
シソ科の植物の塊茎で、幼虫のような形の「ちょろぎ」を見る正月だけは、若き頃と、澁澤龍彦のことを思い出すのだ。
息子一家が正月に来て、宮川町のお節を食べながら、黒豆、梅と一緒に盛り付けた「ちょろぎ」を箸でつまみ、「私ちょろぎが好きです。おいしいし」と息子の嫁が言ったのを聞き逃さなかった。「ちょろぎ」は、うまくすると孫の代まで続きそうだ。